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『世界からコーヒーがなくなるまえに』 ペトリ・レッパネン、ラリ・サロマー著/セルボ貴子訳 青土社,2019-10

世界からコーヒーがなくなるまえに

世界からコーヒーがなくなるまえに

フィンランドはひとりあたりのコーヒー消費量が最も多い国のひとつなのだそうだ。知らなかった。その国のコーヒーおたく二人組が、コーヒーの持続的な生産/消費についての理想を語り倒す、といった感じの本。といっても大半はふたりが心酔したブラジルの FAF という農場の物語で、そこへ行って聞いてきた農場主一家の苦労話と信念がそのまま聞き取り語られるだけ。FAF ではサステナブルな経営がどうにか実現しているっぽいのだけど、なにがそれをもたらしているのかについてはあまり自覚的でないように思われる。いわく、水を大切にしろ、いろいろな木とコーヒーを並べて植えろ、よく木の様子を見てそこがコーヒーに適した環境になっているかを見極めろ。そりゃあそれができる知識と眼力があれば上手くいくのかもしれないけど、たぶん大半の農家はここまでできないのではないかな。
とはいえ、もっと簡単になんとかできそうなこともある。たとえば、自分たちが作っているこの作物が最終的に何になっているかすらよくわかっていない農家も実際にいたりするらしい。それではフェアトレードなど望むべくもないだろう。そういう非対称性を利用して途上国を搾取するのは本当にアンフェアとしかいいようがない。ただ、現実にはそういう細かい搾取の積み重ねでおれたちの今の暮らしが支えられていたりするのだろうとも思うし、今の暮らしを諦められるかと問われると詰まってしまうのだが……。
タイトルは別の本の二匹目のどじょうを狙ったものらしく、原題は直訳すると「コーヒー革命」になるとのこと。気候変動はコーヒーにはそこそこ深刻な問題のようだが、この本自体の趣旨はそこではない。興味深いところはいくつかあったが、全体としては個別の特異例を全体に敷衍しようとしている印象は否めない。もう少しフォーカスを狭くして FAF の物語を語るか、逆にフォーカスを広げてコーヒー業界におけるフェアトレードや品質認証のことを語るかに徹した方がよかったように思う。
あと、余談だが、本の作りがどうにも安っぽいのが気になった。巻頭のカラー写真の画質やキャプションのフォントなど、ちょっとこれはどうだろう……という感じの品質だった。青土社ってそれこそ「ユリイカ」出してるとこだよなあ。こんなに体力なくなってるのかな。たぶん下請けに出してるんだろうけど。