黄昏通信社跡地処分推進室

黄昏通信社の跡地処分を推進しています

『時間旅行者のキャンディボックス』 ケイト・マスカレナス著/茂木健訳 東京創元社:創元 SF 文庫,2020-09-10

奇妙な SF。1960 年代にタイムマシンが発明されて実用化されているという平行世界で、ある密室で生じた不可能状況と見える殺人の謎解きを一応のストーリーの軸に、発明の中心に携わった四人の女性たちを中心にした人間模様や、時間旅行者が存在する社会の様子などを描いている。全体的にはかなりふわっとしているなという印象で、特にタイムマシンそのものや登場する「キャンディボックス」のふるまいについては「細けえこたぁいいんだよ」という声が聞こえてきそうだ。
タイムパラドックスを許容しない、違う時間の同じ人間が平然と同居できてしまう設定や、そのような世界で起きるかもしれないことの描写は面白くてよかったけど、さすがにいろいろと自由すぎてはあそうですかって感じになっちゃうのも否めない。一応とはいえストーリーの軸がミステリなので、そこはつらいところ。
女性の登場人物がめちゃくちゃ多いのも面白い点で、男性がほんとうに出てこない。「逆ベクデル・テスト」みたいなのをやったら通らないんじゃないかな。で、実際ベクデル・テストに通らない作品ってのは世にあまたあるわけで、それって男女逆転したらこうやぞ、というぐらいの意図はあるんだろうと思う。個人的にはかなりフィクション度の高い設定であることもあってかそこまでものすごい違和感はなく、しかしそれも偏見の反映であるようにも思えて、ぐるぐるする。現実の社会が男性中心だからといって、フィクションがそれに従う必要はないはずなのに、どうしてそうなってしまうんだろうね。