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「生誕100年 石元泰博写真展 伝統と近代」 東京オペラシティアートギャラリー,2020-10-10~2020-12-20

https://www.operacity.jp/ag/exh234/
行ってきた。妻と行こうと言っていたのだが、今月に入ってからの有休をぜんぶ月曜にしてしまったおかげでどうしても都合が合わせられず、別々に観に行くことになった。この展覧会は先月まで東京都写真美術館でやっていたのと対をなしていて、大まかには前半生がこちら、後半生が恵比寿、という住み分けになっていたらしい。ということでシカゴ時代、帰国後の東京時代、有名な桂離宮、食物誌シリーズなどが展示されていた。
写真家というのは多かれ少なかれそうだと思うけど、この人もかたちマニアで、特に人工物にどのような形があるかということをひたすら追求して撮っていたのだろうな、と思わせる写真が多い。そしてその見出した形を、一部の隙もなく完璧な構図で画面に捉えることに、端的に言えば喜びを見出していたのだろうと思う。人の写真はあまり多くなく、ポートレートも正直そんなによくない(とくに有名人を撮ったシリーズは微妙、石元本人のが一番よく撮れている)。シカゴ時代に自動車を真横から撮った作品が複数あるが、乗り物としての車というよりは直線と曲線の組み合わせで作られるかたちを面白がっていたように思われるし、その上の雪も形を際立たせる添え物だったのだろうと思う。
上のリンクから行ける展覧会のページに「インタビュー」というコーナーがあって(石元へのインタビューではない、念のため)、その中に「本人人を撮るのは苦手だったらしい、特に大人と女性はだめで、だから子供の写真が多い」なんて話が出ていて、さもありなん。展示の中に「ヌード」というタイトルのヌード写真があるんだけど、それも明らかに、女体の形が面白くなるポーズと構図で撮っている。
そういう嗜好だから、本領が発揮されるのはやはり建築だ。建築においても細部が持つ形には興味があったようで、桂離宮シリーズはそれがよくあらわれている。伊勢神宮でも屋根の端にある飾りの部分を撮っていたりする。ただその一方で、大きく全体を捉えた写真でもやっぱり素晴らしいんだよね。国立代々木競技場の吊屋根体育館の写真なんて名のある写真家だけでも何百人も撮っているだろうしおれも何度となく見ているのに、それでも石元の写真にははっとさせられるのだ。こんな形を与える角度があったのかと。そういう、形を捉える集中力と独創性には抜きんでていた写真家であったのだろう。
いわゆる近代建築だけでなく、工場やパイプラインをとらえた近代産業のシリーズもよくて、形の面白さの中に当然ながら時代が閉じ込められている。あと、展示はスライドだけだったんだけど、イスラム建築/装飾を撮ったシリーズがあるみたいで、そんなの相性いいに決まってるよね。アラベスクは形の芸術なのだから。どのシリーズにおいても、時を越えてきたかたちの面白さ、みたいなものが存分に味わえて、とてもよかった。恵比寿のやつも見たかったな。
1月からは高知県立美術館でトリをつとめる大展示が行われるそうです。