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『もみのき そのみを かざりなさい』 五味太郎 アノニマ・スタジオ,2020-11-15

もみのき そのみを かざりなさい

もみのき そのみを かざりなさい

  • 作者:五味太郎
  • 発売日: 2020/11/15
  • メディア: 単行本
妻が買ってきたのだが、一読して参ってしまった。これはすごい。本当にシンプルな本で、各ページには一枚の絵と一行の文章があるだけ。その文も、たとえば「さく やすみなさい」のような、絵に描かれているものに対して呼びかける形の命令形の文で、それがただただ最初から最後まで並んでいる。しかしその形式と静寂そのものを描いたような絵がえもいわれぬ雰囲気を作っていて、一冊の本が一編の詩になっている。つぶやくような、かたりかけてくるような、時に不思議で、時には可笑しな命令がびっくりするほど胸を打つ。五味太郎についてはいまさら語るまでもない大御所だが、こんな抒情的で美しい作品を作っていたとはつゆ知らなかった。不勉強を恥じる。最初の版は 1981 年にリブロポートから出たそうで、その後 2001 年に文化出版局、そして今回とどういうわけか 20 年ごとに版元を変えて刷られているようだ。これほど素晴らしい本が絶版になってしまうというのはちょっと信じがたいが、しかし一方でままある話でもある。悲しいことだが現実だしそれには向き合わなくてはなるまい。というわけで本当に素晴らしい絵本なので見かけたら手に取ってみてほしい。きっと手元に一冊置きたくなるか、だれか大切な人に贈りたくなるはずだ。いやまあ、ならん人もいるだろうけども。