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『なぜペニスはそんな形なのか - ヒトについての不謹慎で真面目な科学』 ジェシー・ベリング著/鈴木光太郎訳 化学同人,2017-03-02

タイトル、もっともな疑問だ。変な形してるよね、ちんちん。あの、先端の少し下が太くなってるの、なんなんだろう。あと、そもそもなんであんなところにぶらぶらぶら下がってるんだろう。あの辺だけぼーぼー毛が生えてるのってなんでなんだ? そんなような、誰もが抱くけどちょっと聞きづらいもろもろの疑問について、著者がさまざまな論文や研究を参照しながら語っていくエッセイ。多くの文章の初出はサイエンティフィック・アメリカンのオンラインエッセイとのことで、どこの馬の骨ともしれない文章というわけではない。内容についてももちろんちんちんとか毛とかばかりではなく、たとえば小児性愛や同性愛といったぱっと見適応的ではないように思われる性的嗜好だとか、脳に損傷を受けることで異常性欲を見せるようになった事例とか、自殺についてであるとか(これは著者の次の本のテーマになったそうな)、そういうどちらかといえば“真面目”なテーマのエッセイも数多く収録されている。

しかしまあ、不謹慎な研究をするのもなかなか大変だ。たとえばタイトルになっている「なぜペニスはそんな形なのか」を研究しようと思ったとして、観察して、仮説を立てる、まあそこまではなんとかなるとして、じゃあ実験で検証しましょうというときにセックスするわけにはちょっといかない。人間のペニスの形は変えられないし、かりに変えられたところでそれによって妊娠する確率がどう変わるかを調べるわけにもいかぬ。本書で紹介された研究で代わりになにをしていたかというと、平たく言えば「オナホールに疑似精液を入れた状態で何種類かの形の張型を突っこんで出し入れする」というようなことである。で、いちおうその研究で提示された仮説は、正直ぱっと見ほんとかいな、という感じではあるんだけど、とにかくも数字が出てる実験なわけだから意味はあるはずで、ほーん、と思ったりする。ただ、この実験に限らず本書で紹介される実験はほとんど追試されていないっぽくて、おそらく世の中の大半の研究はそうなんだろうけど、まあわりと眉に唾したほうがよさそうな感じの研究もあるように思える――それこそが偏見なのだろうとも思いつつ。

さらっと読めて面白く、時々深く考えさせられる。科学エッセイとしてなかなか水準が高いと思う。著者のほかの本も、ちょっと読んでみようかなと思った。