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『近代建築散歩 東京・横浜編』 アトリエM5、宮本和義著 小学館,2007-11-26

近代建築散歩 東京・横浜編

近代建築散歩 東京・横浜編

タイトルの通りの本。正直この手の本って佃煮にするほどあって、どれを読んでもそれなり以上には楽しいし、しかし読んだ後の印象はどの本でもそんなに変わらない印象もある。本書は比較的尖っていたのでメモしておく。
著者は建築を主なフィールドにする写真家で、半ば趣味で全国の気になった建物を撮りまくっているらしい。おそらくその量が尋常ではなく、その中から選ばれた物件なのでとにかく数が多い。類書多しといえどもこれほどの数の物件を収めているものは少ないように思う。それも有名無名関係なく著者がいい建物と思えば入っているので、「誰がデザインしたかもわからない街の商店」みたいな物件も載っている。その裏返しとして、残念ながら一点一点の写真はさほど大きくないものが大半を占めるし、カラーページも多くはない。少なくとも著者の意図としては本書はあくまでも散歩のための副読本で、写真を眺めて楽しむ本ではないのだろう。
とはいえ写真に添えられている説明は面白く、作者の美的感覚がはっきりしていることもあって、読んでいるだけでも面白い。名のある建築家でもばさばさぶった切る様は痛快だし、その一方で文字通り無名の建築に寄せる思いがけないほど好意的なコメントにははっとさせられる。誰が作ったとかに関係なくいいものをいいということのいかに難しいことか。東京大学のキャンパス内でも、立ち並ぶ内田祥三の建築を似たような印象で退屈と片付け、その中にたたずむ理学部の化学本館を評価し、設計者である当時の営繕課長山口孝吉を「他に作品のないことが惜しい」と讃えている。そんな調子で、著者の意図とは逆に、実際には読んでいてけっこう楽しい本だった。
姉妹編で京都・神戸編があるらしいけど、流石に知っているところのほうが多分楽しそう。もしそちらの方にお住まいの方で興味のある方がいたらそっちを買われたらいいと思う。絶対いないと思うけど……。