黄昏通信社跡地処分推進室

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『暗闇にレンズ』 高山羽根子著 東京創元社,2020-09-30

映像にまつわる物語。街中のあらゆるところにカメラが設置された近未来のパート「Side A」は高校生である主人公と友人である「彼女」を中心に進む。様々なところにさして怪しまれず潜り込めて、なんならカメラを向けて撮影をしてすらおとがめを受けないこともある、女子高校生という身分。ふたりは集めた素材を編集してあてもなくインターネットの片隅に流していたが、やがてその映像が注目を集め始める。「Side B」は映写機が日本に初めて入ってきた明治期から徐々に時代を下ってくる過去のパートで、ある一家の代々の人物を中心に虚実を交えて描いた映像史とでもいうべきものになっている。ふたつのパートが交互に進行するのだが、Side A は思わせぶりながらそれ以上のものではなく、Side B の方が圧倒的に分量が多くて面白い。終盤にかけて徐々に両パートの時点が近づいてきて、Side B で描かれてきた内容が Side A に反映されて長い伏線と種明かしになる、みたいな構成を期待しながら読んだのだが、特にそんなこともなく、つながりがあることだけが示唆されて終わってしまう。映像兵器に関する不穏な描写も何度か顔を出していたのでどう収拾をつけるのだろうと思っていたけど、そこもなんとなくうやむやのままだった。うーむ。要素や人物は面白いものもいくつかあったけど、これではちょっと。