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『宮内悠介リクエスト! 博奕のアンソロジー』 宮内悠介 他 著 光文社,2019-01-22

もとは「小説宝石」の連載企画。宮内悠介がこれはという作家に依頼して短編を書いてもらい、それを小説宝石にひと月ずつ載せていくというものだったようで、連載が終わったところで一冊にまとめて本になった。本人が書いた短編も含めて十篇が収録されている。これは 2018 年に行われた第2シーズンで、もうひとり森見登美彦が『美女と竹林のアンソロジー』というのをやっていたらしい。現在は第3シーズンが開催中とか。
というわけで博奕の話が十篇入っているのだが、よかったのは「獅子の町の夜」梓崎優、「開城賭博」山田正紀、「杭に縛られて」宮内悠介、「死争の譜」冲方丁というところ。「獅子の町の夜」はシンガポールを舞台に主人公が出会ったある老婦人の賭けを描くのだけど、全体におしゃれでお金の匂いがしてよかった。博奕というのは徹底的に金の匂いがするか、あるいはその真逆が楽しいと思っている。賭けそのものも面白い。「開城賭博」は幕末を舞台にしたとんでもない賭けの話。すごい与太話なんだけどそこへ行くまでのはったりの積み重ねが上手くて楽しい。というかほとんどそれだけでできているんだよな。山田正紀というひとはこんな話を書く人であったか。いい意味で印象を裏切られた。「杭に縛られて」はある船の上で行われる賭博の話なんだけどむしろ船そのもののほうがすごくて、妙なリアリティがあるのでもしかして実体験ではと思っていたら、あとがきでほんとに「船は実際に乗ったやつだし今思うとあの船自体が博奕だった」みたいなことがさらっと書いてあって笑ってしまった。賭博のルールとそれに対するハックを描くのはいかにも宮内悠介ならではで、この手つきは好き。「死争の譜」は江戸時代の囲碁が題材で、これまたいかにも冲方丁らしく安定の面白さ。思えば『マルドゥック・スクランブル』も博奕の話だったもんな。
あとはひとことずつだけ。
桜庭一樹「人生ってガチャみたいっすね」はタイムトラベル SF 風。「小相撲」星野智幸は謎の興行小相撲を描いてセンスが光る。「それなんこ?」藤井太洋は作者の郷里奄美大島の酒席で行われる余興を題材にしているが作者にしては平凡。「レオノーラの卵」日高トモキチは『不思議の国のアリス』的な設定が面白い。「人間ごっこ」軒上泊は昭和のろくでなしが令和に転生したみたいな話で、過剰な比喩がいい味を出していた。法月綸太郎「負けた馬がみな貰う」はメインアイデアがちょっと面白いんだけどディテールがいまいちで、そこを乗り越えられていれば面白かったと思う。
というわけで書き下ろしアンソロジーとしてはまあまあというところ。『美女と竹林のアンソロジー』もちょっと読んでみたくなった。