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『ジェンダーと脳――性別を超える脳の多様性』 ダフナ・ジョエル、ルバ・ヴィハンスキ著/鍛原多惠子訳 紀伊國屋書店,2021-08-31

脳の性差に地道に迫った本。感覚的にはたぶんそうなんだろうなーと思うことが丁寧に書かれていて気持ちいい。男女で脳の構造が決定的に違ったりはしないし、特性についてもしかり。だからといって男女の脳が常に全く同じような性向を見せるわけでもない。脳の機能を細分化して分析していくと、統計的な差は出る。こういう機能は女性のほうが高いことが多い、みたいな機能もたくさんあるし、その逆もある。一方で個人差も大きいため、ひとりひとりの脳を見ると、ほとんどの人が男性のほうが多く持つ特性と女性のほうが多く持つ特性を併せ持っていて、それがいろいろな分野で入り交じったモザイクをなしている。片方しか持っていない人はほぼ皆無だ。とはいえ平均すれば男性は男性が多く持つ特性をより多く持つし、女性は女性が多く持つ特性をより多く持つ。これは感覚的にはめちゃくちゃ納得できる――と個人的には思う。人間ってそういうもんよね。だから仮に統計的な差があったとしても男性はこうで女性はこうでみたいな型にはめた扱いはしないほうがいいよ、というようなことも書かれていて、それもそうだろうなと思う。
思うのだが、では自分がきちんとそれを常にできているかというと、まず間違いなくそんなことはなかろうと思う。長年頭にしみついてきた統計的な傾向の下でそれに左右されずにふるまい続けることは不可能だ。だからといって開き直るのではなく、不可能だということを認識しながらそれでも偏見に屈しないようにふるまうことを目指さなければならない。
海外の一般向け科学書としては驚くほど薄いけれど、その分焦点がはっきりしているし読みやすい。ぼんやり思っていたことが裏付けられたし、なかなかよかった。