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『地球の未来のため僕が決断したこと 気候大災害は防げる』 ビル・ゲイツ著/山田文訳 早川書房,2021-08-18

世界有数の金持ちが書いた、地球温暖化防止を目指すための基礎知識と考え方をまとめた本。原題は『HOW TO AVOID A CLIMATE DISASTER THE SOLUTIONS WE HAVE AND THE BREAKTHROUGH WE NEED』*1ともっと直接的で、まあ要するにそういう本と思ってもらえれば。
人間の活動を「ものをつくる」「移動する」「エネルギーをつくる」などのいくつかのカテゴリにわけて、それぞれがどの程度の割合の二酸化炭素を出しているか、ということを分析し、さらに各カテゴリを細分化した各分野の中で、どのような二酸化炭素排出削減の技術が存在しているか、あるいは必要とされているか、実現のために必要なものはなにか、などを語ってゆく。そこで用いるのが「グリーン・プレミアム」という概念で、現状の物品やエネルギーを、環境負荷が十分低いもので代替する場合にどれぐらい余分なコストがかかるかという数値。たとえば電気料金だったら 10 セント/kwh の上乗せが必要、みたいな数字で表現される。これを見るとその代替エネルギーがどれほど現実的なものかがぼんやりとわかる。技術的に可能なこととそれが社会において現実的であるかどうかは違うし、それは往々にしてコストという形で反映される。もちろんかなり大雑把な数字にならざるを得ないのだけど、それでもいろんなカテゴリの様々な消費について同一の価値観が適用できるというのはいいアイデアだと思う。で、これが算出できない(=そもそもまだできていない/できることはわかっていてもいくらかかるかわからない)ようだと技術としてはまだまだだということもわかる。
網羅的な本としてはよくできていて、あとやっぱりこういう人がこうやって大変なことは山積みだけどやっていこうぜって語ることには意味があるよなと思う。地球環境の将来を悲観している人もこれ読むとちょっと元気出るんじゃないかな。
原子力についてはかなり積極的だったのは印象に残った。「人数的にも原発事故で死んだ人の数は少ない」みたいな論を展開していてそれは駄目だよと思ったけど、やっぱり温暖化防止ってことを考えると原子力は発電手段から外せないと思う。どうしてもオメラス的になるというか、原子力特有の不利益が特定の人や地域に偏在してしまうのは問題で、それはつねにましな手を考え続けなければならないけれど、本書ではそういう言及はなかった。
あとは、自分は個人的には地球環境にやさしい生活はしてない、自分と家族は自家用ジェットで移動してるし、でも自分は炭素排出量削減技術のために 10 億ドル以上投じてきた、みたいなこと書いてるのはよかった。この人が電車や船で移動してちょっとやそっとの炭素排出を削減するよりばんばん飛び回って多少は炭素ばらまきながらでもあちこちに投資してくれる方がよっぽど有意義なわけで、そこは堂々としてていいんだよね。
炭素排出量削減に関する技術に関して大づかみに知りたい人には悪くない本だと思う。地球温暖化の問題について考えるためには、温暖化が環境に及ぼす影響についても知る必要があって、それはまた全然別の話になるしこの本ではほとんど全く触れられていないことには注意。

*1:これ打つとき Caps Lock 使った。日常で滅多に使うことないからうれしい。