黄昏通信社跡地処分推進室

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「こぐまちゃんとしろくまちゃん 絵本作家わかやまけんの世界」 世田谷美術館 2022-07-02~2022-09-04

わかやまけんの、初の大規模回顧展。こぐまちゃんシリーズ、大名作の『しろくまちゃんのほっとけーき』こそ知っていたものの他はあんまり知らず、ましてほかにどんなもの描いてたかなんて全然知らないで行ったのだが、これが実によかった。こぐまちゃんシリーズはこぐま社が出していて、おれはてっきりシリーズがバカ売れしたから分社とか独立とかがあって発足した会社なのかと思っていたのだが逆で、理想の児童絵本を作るために設立されたのがこぐま社で、そこが社命を賭けて世に送り出したシリーズがこぐまちゃんシリーズだったのだそうだ。シリーズは編集者、作家など四人のチームで作られ、開始当時二歳だったわかやまの息子がこぐまちゃんの行動のモデルになっているのだという。印刷は多色刷りで、原版はわかやまが一色ごとに描いた色下絵を元に作られていたらしい。展示されている映像で『しろくまちゃんのほっとけーき』の1ページを職人が多版多色のリトグラフで刷る工程を撮ったものがあったのだけど、中間色が複数の色の混合で正確に表現されていて見事であった。あと、多色刷りだからいちいち一色刷るごとに位置合わせをしなければいけないんだけど、職人さんが、まあ慎重っちゃ慎重なんだけどそれでも驚くほど早く、しかも無造作(としか見えない風)にふっと手を離すのに全色完璧に正しい位置に刷られていて、魔法を見ているようだった。

いろいろな絵柄で様々な作品を書いていて、それぞれに力があって、うーん、絵本というのはやはり絵の本なのだなあという当たり前のことを思う。そこはわかやま本人も意識していたところであったようで、あまりテキストの多い絵本は書いていない。できれば絵だけで全部伝わるように、というのは常に旨としていたようだ。
最後の方は長らく描いてきた業界誌「保育の友」の表紙がずらずら展示されてたんだけど、これがまたいいんだよね。フルカラーでけっこう細かく描き込まれていて、相当な労力がかかっていると思うのだけど、一枚一枚がそれぞれの世界を持っていて、やわらかく美しい色彩で、少なからず遊び心を持って描かれていて、これが毎月見られたらさぞ楽しみだったろうなと思った。展示されていたものも、古い号は実際の雑誌から表紙だけ切り取ったものが展示されていて、誰かがそうやって保存していたのだと思うのだけど、気持ちはわかるな。

特設サイト
https://www.setagayaartmuseum.or.jp/exhibition/special/detail.php?id=sp00209
https://koguma-wakayama.com/highlight.html
上は世田谷美術館のもので、下は巡回も含めたイベント全体のサイト。下の方が内容は充実しているのだが、ドメイン見る限りいかにも会期が終わってしばらくしたらなくなってしまいそうなので両方張っておく。今日日美術館すら企画展のウェブページを残してくれるとは限らないのが世知辛いところだが、世田谷美術館はいまのところ残してくれている。