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『夜行』 森見登美彦著 小学館,2016-10

夜行

夜行

森見登美彦ひさびさの単行本、みたいなふれこみで、ちょっと縁があって読むことになったのだが、個人的にはあまりぴんと来なかった。


語り手を含む六人はかつて京都の英会話教室で共に学んでいたが、鞍馬の火祭りに一緒に出かけた時にメンバーのひとりだった謎めいた女性、長谷川さんが忽然と姿を消してしまう。十年後、火祭りで再会した一同はそれぞれの奇妙な体験を語り始める。その全員の体験に、往時京都でアトリエを構えていた岸田という画家の「夜行」という連作銅版画がかかわっていた。
「夜行」と岸田について、描かれている女性について、「曙光」というもうひとつの連作の存在、そしてそもそも一体何が起きているのか。いくつもの謎が示されて、そのうちのいくつかは(はっきりしない形で)明かされる。しかし全体としてはあまりに漠然としていて、それは読者の想像に委ねる、ということではあるのだろうけど、少し発散しすぎている印象を受けた。


全体の暗さと、色濃く漂う死の気配は悪くない。そのあたりは作者の新境地ではあるのかな。ただ、雑誌連載であったこともあって、広げた風呂敷をたたむのに苦労しているような印象も受けた。