黄昏通信社跡地処分推進室

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『砂の薔薇』 新谷かおる 白泉社,1989-1998

最近漫画喫茶では新谷かおる『砂の薔薇』を頭からずっと読み返してたのだが、それを見てTさんが連載時期は何時か、と訊いてきたので90年代前半頃だった筈だと答えると、「新谷かおるって全然絵が変わらないよね」と云う。なるほど『エリア88』の中盤以降おそらく殆ど変わっていない。で、「でも女の子がちゃんと可愛いのが偉いと思う」。
まあ好みの問題もあろうが――というかその方が大きいだろうが――おれもそれには同感で、正直かなり手癖の強い絵柄だし、もはやはっきり古いし、デッサンなんかもかなりやばいと思うんだけど、でも可愛いなあ、ってのはずっと感じてて。
『砂の薔薇』は漫画自体も新谷かおるの趣味全開で、女性ばかりの民間の対テロエキスパート、というあり得ないながらも受けが広い主人公たちの属する組織の設定を作った時点で半分勝っていて、そこに伝統的な小隊もののひとり一芸システムを絡めることで、軍事おたく/蘊蓄好きの面目躍如たるエピソードを次々に繰り出した快作だ。隔週の雑誌で3〜10回程度を1エピソードとした形式もよく、単行本15巻で完結しているが最後まで特にてこ入れもないのにテンションが殆ど全く落ちていない。新谷かおるは『エリア88』にすら伺えたように、特定方面には引き出しがたくさんある一方でおそらく相当飽きっぽい質で、その性向と作品ががっちり噛み合っていたんだろう。
んで、まあ、本人女の子描くの凄く好きなんだろうね。好きこそものの上手なれ、なんてプロに言うのは失礼だけど、少なくともこの作品に関してはそうだと思うですよ。一番端的に現れてるのがコリーンの扱い、というか出世ぶりでしょう。
まあリアリティは根本的な設定からしてあれだし危ういと思うんだけど、それでも各所で出てくるギミックやトリビアが、ブラフかも知れないと感じるにしても最低限の説得力はあると思うんで、個人的にはそんで充分かな、と。