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『牌賊!オカルティ』 片山まさゆき 竹書房

第7巻が出て完結。続けられるだけのねたはあったのだろうけど、商業的に先がないと判断したのかされたのか、前巻後半からたたみにかかってたので、ある意味では予定通りの終了。作者は未練があるようで、珍しくあとがきで後悔を露わにしていた。
この漫画の主役は「オカルトシステム」で、刈人はその使い手でしかなく、デジタルクルーズもそれと戦う(そして倒される)ために存在した組織でしかない。主人公に至っては実質的に狂言回しに過ぎない。「システム」は、「感覚的には解るが確率的には根拠のない格言の類」が主で、それにいくつかの「単なるオカルト」や「形としては感覚的だが確率的にも理に適っている格言」などが取り混ぜられて作られている。
もう一方の主役とも言えるのが「確率」だ。麻雀のように不確定要素の多いゲームをやっていると、人は嫌でも確率を意識せざるを得ない。それに従うように動くにしろ、逆らうように動くにしろ、全く確率を意識せずにその手のゲームを遊ぶ人は殆ど居ないだろう。だが、それほど支配的、絶対的と言ってもいい「確率」は、短時間で正確に計算することは極めて困難で、多くの人にとって味方につけるのがとても難しい概念だ。だから、それにオカルトが勝利を収めることは、多くの人に共感をもたらす。
このような対立軸を据えた上で、オカルトが勝って行く過程を、麻雀というフォーマットの上で、読者に納得の行くように、双方の持ち味を活かしながら描いていく。これは作者の十八番で、ここまで持ち込めればこの人の麻雀漫画は大体面白い。
作者はこれまでの半生でもの凄くたくさん麻雀を打っている。確率ってものの重要性を、これほどよく知っている漫画家は居ないかも知れない。それでもなお、勝負事において、確率を越えた所に踏み込むべき時がある、と感じる瞬間があるのだろう。そういう瞬間が垣間見える(気がする)からこそ、この人の漫画のここ一番の勝負は理屈を越えてなお説得力を持っている。
ともあれ面白かった。傑作。あとがきによると商業的には成功しなかったようで、残念に思う。
以下は余談。
この漫画、各回の扉の絵が毎回々々本編とほんとに全く関係なくて、そのくせ描くのがちょっとめんどくさいシーンが多く、絵の練習をしてたんじゃないかとおれはにらんでるのだが、何処まで行ってもこの人これ以上は絵が上手くならないんだろうと思う。描くの自体はわりと好きなのかも知れん。
あと、作者は(どこまで本当かわからないが、本人によると)借金が大分あるらしく、その所為かどうかは不明だが、描き飛ばすようにあちこちで連載を持っている。大抵は短命に終わるが、その中にも面白いものがあったり、中には化けて抜け出してくるものがあったりしている。行き当たりばったりでしか描けない質のようだから、現在のスタイルは図らずも合っているように思う。また面白い作品が出てくることを期待したい。