黄昏通信社跡地処分推進室

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輸入物か国内物か。

輸入盤(CD)を買うとよく箱にステッカーが貼ってある。よくあるのは「Including 'Purple Sneakers'」みたいな、要するにシングルでヒットしたなんとかって曲が入ってますよ、というもので、これは日本の CD でも結構見る気がする。
それとは別に、もっと直接的というかみもふたもなく「BEST BUY」とか「NICE PRICE」とか書かれてるステッカーが貼られてるのがちょくちょくあって、結構可笑しい。「これは買い」とか「お買い得」とかいったところだろうけど、いやそんなこと言われてもさ、という。あれは向こうの国内で売ってるのにも貼ってあるんだろうか?

輸入盤と日本版(日本向けにローカライズされて、日本のレコード会社が売っているもの)を比べると、だいたいは日本版の方が 600〜700 円高くて、その代わりに歌詞カード、歌詞の対訳、ライナーノーツ、ボーナストラックなんかがついてくる。これらの付加価値が対価に見合っているかというと中々微妙なところだ。
全部聴き取れるほど耳がよくないおれとしては確実に有難いのは歌詞カードなのだが、これは輸入盤でも、つまりもともとついていることがある。大体バンドによってつけるつけないは決めていることが多いので、知っているバンドならある程度判断はつく。とはいえ方針を変えることもあるし、初めて買うバンドでは知りようがない。
歌詞の対訳やライナーノーツは質が結構まちまちな上に個人的な相性もあるので、ほとんど何の意味も持たない場合からかなり嬉しい場合まである。確実に有難いとは言えないが、ある程度そのバンドに対する親しみを増してくれることは多い。特にファーストアルバムではプロフィール的なものがついていることが多いので、あまりバンド自体を知らない場合は興味深いかも知れない。
ボーナストラックは唯一 CD 本体に収録される付加価値で、多くの場合シングルのカップリング曲やライヴで収録された音源なんかが入っている。大抵はちょっと嬉しいものだし、時々神曲が入っていて驚かされることもある。以前一度書いたが、アイドルワイルドの『100 Broken Windows』なんかは2曲入っているボーナストラックが素晴らしく、絶対に日本版を買うべきアルバムだ。
逆にボーナストラックが悪く働くことは滅多にない。ただ、アルバムというのは曲のセットであると同時にそれ自体ひとつの作品でもあるのだから、曲を加えるというだけでもある種の改変ではある。それをよしとしない人には問題外の代物だろう。そこまでこだわりのない人にとっても、ボーナス曲はだいたい一番最後に収録されることから、アルバムの残す余韻が変わることは否めない。
おれが知る最悪の例は、有名なところではあろうけどスウェードの『Coming Up』。このアルバムはおそらくスウェードの最良のアルバムで、バンドの持ち味である美しさとナルシシズムが最大に発揮されている名盤だ。特に最後を飾る「Saturday Night」は繊細なメロディとブレット・アンダーソンのヴォーカルが噛み合った名曲で、おれは普段はアルバムの曲順なんてそんなに気にしない質なんだけど、このアルバムばっかりは「Saturday Night」で終わらなくちゃいけないと感じるほど。
それが、日本版では無粋なことに次の曲が始まってしまう。しかもその曲のイントロが微妙に「Saturday Night」と似ているという妙なおまけがついている上に、そこまでいい曲とも思えない。さらにボーナストラックはその1曲だけなのだ。ライナーノーツでもそれについて言及されていて、「これだったら入れないほうがいい、せめて順番だけでも最後にはしないで欲しいとお願いしたのだが叶わなかった」というようなことが書かれていたのを憶えている。無論これは極めて稀な例だが、こういうこともあることはある。『Coming Up』については輸入盤をお勧めしたい。

だんだん話が逸れてきたが、CD をよく買う人はおそらく輸入盤を買うか国内版を買うかについて自分なりのスタンスを持っていることだろう。そうじゃなくて、たまにしか買わないとか人に勧められたとかで、どっちがいいんだろうと迷ってしまうような人にひとこと言うとすれば、とりあえず国内版がおすすめではある。小さなおまけの積み重ねでも、そのアルバムを気に入る可能性は全体としては上がると思うから。