黄昏通信社跡地処分推進室

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「ああ、あれに似てるかも、」
と彼女が言い出した。
「マリオで、床が見えなくなる面があったでしょ」
「うん」 僕はうなずく。
ファミコン版ではカットされてしまったギミックだから知らない人も多いかもしれないが、『マリオブラザーズ』の 16 面以降のボーナスステージには床が透明になるフィーチャーがある。面の開始時には見えているが、少し経つと半透明になり、やがて消える。
床の位置自体は他の面と変わらないし、コインの位置も同じだから、何百回も繰り返してきたように動けばどうってことはない。筈なのだが、これが意外と手こずるもので、ジャンプの位置が安定しなくて中央のフロアにすら上手く乗れなかったりする。
「あの、よく行ってた代々木のゲーセンだと、モニタが焼けてて床がうっすら見えたんだよね」
「え?」
僕は間抜けな声を出してしまった。「おれの側だと全然判らなかったなあ」
ふたりでやっていたのだから、もちろん同じモニタを見ていたわけだ。ただ、必ず彼女がマリオを操り、僕はルイジだった。多分照明の位置や角度の関係で、僕の位置からはモニタの焼きつきまでは見えなかったのだろう。
「きみが『上手いね』って言うから黙ってたんだけど」
彼女は嬉しそうな笑みを浮かべながら告白した。
たしかに僕は透明な床によくぶつかり、ひょいひょいと上がっていく彼女のマリオを下から見上げることがしばしばあった。感心して、うまいね、と口に出したことも何度かあったと思う。そうだったのか。
「……マリオもやってないねえ」
彼女が呟いた。
代々木駅の南側にあった、恐竜の登場する映画みたいな名前のゲームセンター。恐竜というより化石みたいなゲーセンだったけど、まだ存在するのだろうか。音が満足に出ず画面の信号も怪しくなっていたマリオブラザーズの基板は、今でも 100 円玉を稼いでいるのだろうか。

どこまでほんとの話かはひみつ。