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キャラクターの話 (2) :「人物と物語の衝突」

過去記事:
(1)「登場人物が勝手に動く」
登場人物の性格が予定通りにならない、と前回書いた。あくまで自分の場合については、なにが起きているかはわかる。


つまり、「最初に性格をおおまかに設定する→考えながら書く→実際に性格が決まる」という過程を経る間に、大体性格が多少の差はあれ変わってしまうのだ。
これが前回書いた予定通りにならない過程だが、理由については書いていなかった。
物語を書くときに、大抵の人はある程度の展開を決めておいて、それに沿う形で文章を書いていくと思う。この「ある程度」というのが実際にはどの程度なのかというのは人によって違うように思われるが、頭の中に考えた通りの展開に 100% 沿って文章を書ける人はおそらくいないだろう。
その時に、予定していた性格と、決めていた物語の展開がぶつかることがある。そこで性格と物語とどちらを優先するか、という決断を迫られる。もちろん性格を優先させる場合もあるだろうが、物語の中で展開をひとつ曲げてしまうと先々にまで影響を及ぼすことが多いから、物語を優先させる場合も少なくないと思う。
あらかじめ性格まで組み込んで物語の展開を考えられる人であればそういう問題は生じないだろう。その人たちにとっては、人物が勝手に動くことなんてない。予定通りの性格の人物が、予定したストーリーに沿って動く。おれには想像がつかないし、そんなことができる人が居るかどうかはわからないが、たぶん居るだろうと思う。
物語というと大袈裟だが、もっと小さな、エピソードレベルのものであっても、この衝突は起こり得る。例えば、ある登場人物Aに関するそれまで隠していた設定をそろそろ読者に見せておきたいと考えた時、作者はできればそれを地の文や独白などではなく、登場人物同士のさりげない会話の中で披露したいと考えるだろう。
しかし居合わせている登場人物Bはあまり他人のことに立ち入らない性格という設定だとする。とすると、とるべき道はふたつだ:
1)Bは「珍しく」Aに興味を持ち、隠された設定を引きだすような会話をする(物語の優先)
2)Bはやっぱりそういうことを聞く性格ではないから、設定の披露は後に回す(人物の優先)
1を選ぶと展開的には予定通りになるが、Bの性格は少し変わってしまう。たかが一度ぐらい、と思われるかも知れないが、実は莫迦にならない影響を及ぼす。これについてはたぶん改めて書くことになると思う。
2を選ぶとBの性格は守られるが、展開的には隠れた設定を出しそびれてしまう。もしどうしても披露しておく必要がある設定だったら、改めてそういう場面を作らなければならない。
もちろん、これをお読みの方は本当にとるべき道にお気づきだろう。
3)BじゃなくてCをその場面に登場させる。
こうできるのであれば、こうすべきだ。でも、実際には展開にそこまで柔軟性がない場合も多いのではないかと思う。どうしてもBと行動してなければならないとか、既にBと一緒に居るところまで書いて公開しちゃったとか、単純に登場人物がAとBしか居ないとか、様々な事情が考えられるが、案外そういうこまごました制約は多いもので、それが物語と人物の衝突を招いてしまうことはしばしばあるように思う。
あくまでこれはおれの話なので、他の人の中でどうなってるかは知らない。ある程度は一般に敷衍できる話だろうし、ある程度はおれ特有の問題だろう。
ともあれ、登場人物というのは、作中に生まれ出た瞬間からこのような大小さまざまの衝突にさらされる。それに対して作者は「なんとなくこういう性格の予定だからこういう風にリアクションするだろう」ぐらいの心構えでその人物の振る舞いを書いていく(今書いてて思ったけど、ここまでいい加減なのがおれ個別の問題のような気がしてならず、そうだとすると今回一般的な話が殆どなくなるが、まあそれはそれでよい(というか手遅れ))。よほどがっちり決めてない限り、予定した性格と実際に形成される性格が違ってしまうことは避けがたい。
性格が予定通りにならない理由は他にもあるので、次回はその話を書こう。