黄昏通信社跡地処分推進室

黄昏通信社の跡地処分を推進しています

NFL 2013 -- Super Bowl XLVIII: Denver Broncos (AFC #1 seed) - Seattle Seahawks (NFC #1 seed) @ MetLife Stadium

史上初めて寒冷地の屋外球場で行われたスーパーボウル。この冬の北米の寒波もあり厳しい気象条件が危惧されたが、ふたを開けてみると試合前で気温が摂氏7度。風も殆どなく、時期と場所を考えればおだやかと言っていい条件だった。今季で言えばディヴィジョナル・プレイオフグリーンベイフィラデルフィアの方がよほど厳しい条件だったと言えよう。
試合はシーホークスのキックオフから開始。リターナーのホリデイはエンドゾーン後方寄りのボールを後ろに体重がかかった状態でキャッチしてからリターンを開始するが、カバーチームの動きがよく 14 ヤード地点辺りでつかまる。ファーストスナップ、マニングは例によってスクリメージラインのやや後ろでオフェンスラインに指示を出すが、その指示を出している最中にスナップが出てしまう。マニングが気づいた時にはボールはエンドゾーンを転々としていて、RB モレノがなんとか戻ってボールを確保しながらエンドゾーンの外へ。わずか 12 秒でシーホークスが思わぬ先制点を挙げた。
そこからは、もう日も経ってしまったしどう書いていいものかわからないが、一度たりともシーホークスはリードを手放すことなく、逆に徐々にブロンコスを突き放していって快勝した。最終的なスコアは 43-7 だった。
シーホークスのディフェンスは素晴らしかった。マニングに迫ることこそ多くはなかったものの、カバレッジがとにかくタイトで、マニングにロングパスを殆ど許さなかったどころかミドルレンジのパスさえ多くは投げさせなかった。ブロンコスはショートパス1本ではファーストダウンが取れず、ランとショートパス、あるいはショートパス2本が両方決まればやっとファーストダウンという感じだった。
シーホークスのオフェンスはそこそこというレベルであったと思うが、得た機会を逃さず着実に得点に変換していった。前半終了間際にはインターセプトリターンタッチダウンで 0-22 とし、後半最初のキックオフではパーシー・ハーヴィンが 87 ヤードのキックオフリターンタッチダウンを決めてほぼ試合を決定付けた。最終的には大差と言っていい差がついた。レギュラーシーズンに何度もやっていたような試合運びだった。最後はウィルソンが引っ込み、タバリス・ジャクソンが投げていた。これもレギュラーシーズンに何度か見せたように。



ラッセル・ウィルソンはわずか2年目のキャリアでスーパーボウル・リングを手にした。これは NFL 史上4人目の記録で、先んじた3人はカート・ワーナー、トム・ブレイディ、ベン・ロスリスバーガーであるから、もはやこの時点でウィルソンは超一流のクオーターバックと肩を並べたと言ってもいいのかも知れない。
ただし MVP には選ばれなかった。アメリカンフットボールというスポーツの性質上スーパーボウルの MVP は圧倒的にクオーターバックが選ばれる可能性が高いのだが、この試合だけに関して言えばディフェンスをフィーチャーするのは妥当であろうと思う。「Defence wins Super Bowl」という言葉はこういう試合のためにある言葉なのだから。MVP に選ばれた LB スミスは数字上インターセプト2回が記録されているがいずれも他の選手がディフレクトしたボールをすっぽり拾ったいわゆる「ごっつぁん」で、まあしかしそれも含めてよく動いていたということではあるのだろう。
ドラフト3巡目でリーグ入りしたウィルソンの給料は契約だから仕方ないとはいえ不当なほどに安い(年俸 70 万ドルぐらいだったと思う)。そして、サラリーキャップ制のある NFL では皮肉にもウィルソンの安さがシーホークスの強さの一因であるとも言える。ウィルソンはあと2年この低水準に甘んじなければならないが、逆に言えば自身の給料がキャップを圧迫しないうちに再びチャンスが巡ってくるかも知れない。そして契約が更新された5年目にウィルソンの真価が問われることになるだろう。



ブロンコスは完敗で、その少なからぬ部分はマニングのパフォーマンスによると言える。だが、ツイッターにも書いた通り、この敗戦がマニングの戦績において大きな瑕疵になるものでは本来ないと考える。一戦一戦は所詮水物であり、短いとはいえプレシーズンからポストシーズンまで含めれば 20 戦以上のシーズンの中で浮き沈みがあるのはむしろ当然のことだ。そしてまだマニングのスーパーボウルでの戦績は1勝2敗にすぎない。
ただ、これもツイッターでは書いたことだが、比較対象としての実弟の存在というのは、ひとつこのペイトン・マニングというクオーターバックの戦績にわずかな曇りの印象を与えるものではあると思う。NFL の直近 10 シーズン通算でもっともインターセプトが多いという数字に象徴されるように、イーライ・マニングという選手はおそらく今後キャリアを重ねても兄の域に達することはない。しかし、彼はスーパーボウルで既に2勝をあげており、そのいずれもがトム・ブレイディ――現在まさにペイトンと並び称され、おそらくはその記録のいくつかを塗り変え、歴史に確固たる名を刻むであろうクオーターバックを相手に挙げた勝利である。レギュラーシーズンの記録とは無縁であろうこの弟が挙げた2勝は永く人々に記憶されることであろうし、兄においてはこの大敗がまた記憶されることになるのだろう。
ペイトン・マニングのキャリアはまだ終わりではない。現在の契約だけでもあとまるまる3シーズン残っている。その中であと1回、ねがわくば2回、スーパーボウルに駒を進めてそして勝つことができるなら、この試合の記憶はかなりの部分まで払拭できるであろうし、現役最後の2年にスーパーボウルを連覇したジョン・エルウェイのような締めくくりだってそう非現実的な妄想ではない。もちろんペイトン本人だってそんなことは百も承知の筈だ。あるいは失意の一晩を過ごしたかも知れない。だが、翌朝には彼はあの額を前に向けて、来季へ向けてのたゆまぬ一歩を踏み出したに違いないのだ。