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『プリンセス・トヨトミ』 万城目学 文春文庫,2011



プリンセス・トヨトミ』 ISBN:9784167788025


会計検査員の敏腕検査官が、実地検査で向かった先の大阪でいくつかの自治体や法人をまとめて検査するが、検査対象のリストの中に奇妙な名前の社団法人があるのを発見する。一度は連絡不行き届きで検査できずに引き返しかかるが、検査官はある予感を覚えて大阪にとどまり、翌週改めて検査を行う。するとその法人は思いがけない秘密を持っていて……というのが物語の一本の軸。もう一本の軸は大阪市のからほり商店街で育った少年とその親友の少女で、少年は自分の性別に違和感を覚えており、とうとう決心してセーラー服での通学を開始しようとしていた。しかし実際にはじめてみるとやはり障害は大きいどころか、あからさまに攻撃を受けてしまう。
ある種の職業ものとして会計検査院という着眼点はよくて、そこから巨大な秘密の入り口へ、という展開もいいのだけど、その先が弱い気がした。決められた方法に従ってみんなが一斉に動くところとかすごくわくわくして楽しいんだけど、それだけにその先に待ち受けているものがどうしても肩すかしの感は否めなかった。あとは二本の軸の交わりがどうしても単なる偶然以上のものに見えなかったことは残念かな。もちろん直接の交わり方は全然偶然でいいんだけど、テーマとして絡み合ってないとほんとにただの偶然としか思えないわけで、そこも弱かった。少年の中学校の先生とかジャコ屋とか結構いい味出してて、少年側のパートも決して注がれた力が足りないという感じはしないだけにややもったいない。
ただ、『鴨川ホルモー』の京都がどこか板についていなかった感じに比べると、本作の大阪は実にしっかりと描かれていて、どうも大阪の方が向いてそうだという印象は受けた。実際大阪出身らしい。そこはなるほどと思ったし、なにか大阪を舞台にもっと面白い物語を作れるのではないかなという気はした。