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『ふたつのスピカ』現在7巻 柳沼行 メディアファクトリーコミックス,2002- 

ISBN はキーワードのリンク先参照。
舞台は近未来。宇宙学校に新設された宇宙飛行士科に入学して宇宙を目指す女の子が主人公の物語。主人公は学業や訓練の日々を送りながら、友情を育み、時には傷つき、あるいは挫けそうになり、それでも唯一の夢を目指してひたむきに頑張っていく。
作中の世界ではテクノロジの進歩はかなり控え目で、世界の描写は殆ど現代世界と変わらない(というよりむしろどこかノスタルジックですらある)。このために訓練も当然現実のものと基本的には同じ、あるいはそのアレンジの範囲に収まっている。そういう厳しい訓練の様子が定期的に差し挟まれることが、そもそもちょっと絵空事な設定の下で夢を目指す、というともすると上滑りしてしまいそうな物語を地にとどめている。
また、作中の世界では「かつて日本初の有人宇宙船が打ち上げに失敗して大惨事を引き起こした」という歴史がある。これは宇宙開発に大きな影を落とすと同時に、主人公をはじめとする主要人物の何人かは個人的にもこの事故と浅からぬ因縁がある。物語が進んでいくに連れて、その因縁も避けようもなく語られていくことになる。
いまどきフィクションでもこれはねーだろ、と思うほど前向きな主人公が仲間と共に夢を追う物語が白けてしまわないのは、技術が地続きであることと、世界のトーンがいつも少し暗めで、眩しい夢の裏側にある影の存在を忘れさせないことがある。それは作者が特に宇宙がすごく好きというわけではない、というのと関係あると思う。そのシビアなスタンスがあるからこそ、読んでいる方は主人公たちの成長ドラマに素直に感情移入できるんじゃないだろうか。
ともあれ面白い漫画なので単純にお勧め。カバーの絵はあまりアトラクティヴじゃないかも知れないけど、そこから受ける印象よりは絵は上手い。漫画としてもデビュー作とは思えないほど上手だと思う。

あ、聞かれる前に書いておくと、マリカ派です。(←成長が感じられない発言)