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『神様のメモ帳』 杉井光 電撃文庫,2006 ISBN:9784840236911

久々にライトノベル買ってみた。ちなみに前回は同じ作者の『火目の巫女』1巻だったりする。あらゆる意味で作者買いだ。
舞台は現代で主人公は高校生、非現実要素(ここで言うのは魔法とか妖精とかのこと)は一切入らない。なんとなくだけど、作者の持ち味は現実世界の方が活きるような気はする。
主人公に突然差してきた光が突然奪われてしまうのは、ライトノベルの展開としては正しいのだろうなあと思う。少なくともこういうものを書く人が居てもいい。そして闇に直面した主人公が自らの無力さに気付くときに周りの連中がみんなニートってのが面白いところで、こんな風にだけはなりたくないと思っていた連中が全員自分より凄かった、ということが劣等感を強調している。
中盤はミステリ調になるが、きちんと前半から伏線が貼ってあって謎のレヴェルもちょうどいい。謎解きが主眼の話ではないのだからこんなものだろう。ただ題材としては正直もう少し何かなかったものかなーという気がしなくもない。知らないうちに係わるという制約を考えれば中々難しいだろうということも判るのだが。
自責の念と無力感に苛まれながら、それでも主人公は足を進めようとする。半分自棄になりながら、自分にしかできないことを信じようとする。なにもできないニート以下の高校生だからこそ、たったひとつのことの大切さが際立っている。
空しい解決の後に、探偵は主人公に残された最後の光を見せる。その眩しさと探偵の優しさは心を打つ。そして最後にかすかな希望と、直面すべき現実が示されて物語は幕を下ろす。
作者は(あとがきなんかでは)いつもふざけてるし、この作品も単に趣味に走ってるだろう部分は少なくない。それでもこの話で書いてることはまっとうだ。ニートについての喩え話なんかも本筋と関係ないけど本質を捉えてると思う。このまともさは、あざとさを超えてどこまで読者の下に届くのだろうか。

  • 舞台は渋谷と思しき街で、駅前に出ると南口という描写があるので駅の南西側辺りが高校の位置かな。病人の静脈のような川というのは渋谷川(『ラブ&ポップ』で知られる)のイメージだろうが、実際にはこの川は南北に流れているので街の区切りとしては合致しない。246 の南ぐらいを東西に流れているっぽいのだけど、そういう川はない。地形的にも無理。はなまるラーメンは駅を抜けてなんと「ホームレスのテントが立ち並ぶ公園(ほぼ間違いなく宮下公園)」を抜けて路地を入ったところ、らしいので電力館からガードくぐった辺りになるだろうか。遠っ。