黄昏通信社跡地処分推進室

黄昏通信社の跡地処分を推進しています

『ZOO』 乙一 集英社,2003 ISBN:4087745341

Mが貸してくれたので有難く読む。映画化もされてるとか云うので長編だか連作だかなのかと思ってたら普通に短編集だった。単発で発表していたためか、結構好きにやってる感じがして面白い。特に最後に収録されている「落ちる飛行機の中で」(たしか書き下ろし)はのびのび書いていて楽しい。捨て鉢の男にハイジャックされてしまった飛行機の乗客が交わす会話が思わぬ方に転がっていく、サスペンス・コメディとでも言うべき作品。乙一が「何かを諦めてる人の視点」から繰り出すユーモアは不思議と不快感がない。
一番印象に残った話は「SEVEN ROOMS」。異常なシチュエイションは趣味がいいものではないが、殺人鬼アンソロジーに収録するために書かれた話らしいのでこんなものか。仲の悪かった主人公姉弟が、手詰まりに見える状況を打開しようとするうちに、次第に心を通わせていく様がちょっといい。限定的な空間だけにパズル的な面白さもある。それだけにふたりが到達するソリューションが切ない。
「冷たい森の白い家」などでは、作者は『GOTH』と同様に多分“妖怪”を描きたいんだと思う。ここで云う“妖怪”は「人でなし」という慣用表現で示されるような、人間の形をとっていてもそこから少しはみ出してしまっているように思える者のこと。もちろんストーリーの要請上登場する場合もあるのだろうが、それ以上にまず妖怪ありきで書かれている話もあるように思う。この短編集のタイトルが「動物園」なのも、同名の短編は入っているにしても、あるいはそれを頭においているのかも知れない。
そんなわけで『GOTH』同様人を選ぶ印象。面白いが、質にもややばらつきはある。