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『半分世界』 石川宗生著 東京創元社:創元日本SF叢書,2018-01

半分世界 (創元日本SF叢書)

半分世界 (創元日本SF叢書)

作者の初作品集。異常な設定を大真面目に、どちらかといえば抑制された文章で淡々と描いているのが収録作に共通する特徴か。やや長めの短編四編が収められている。「吉田同名」は主人公のサラリーマン吉田大輔が帰宅途中に二万人弱に大増殖してしまう、という話。その吉田大輔たちはあらゆる意味で全員本物で、しかし社会はまったくそれを受け容れることができない……というシチュエイションが怖い。増殖自体はまったく荒唐無稽だが、その後起きることの描写は妙にリアルでうすら寒い。ところどころ楽しそうでもあったりするところが怖さに拍車をかけている。表題作「半分世界」はある時道路に面した一軒家の手前半分がすっぱり切り落としたように消滅してしまったところから始まる。これもあり得ない状況で、周りの人たちのリアクションもよく考えてみるとおかしいのだけど、なぜかそういうこともあるかもしれんと思わされるところがある。もしかするとある種の願望が反映されているのかもしれない。「白黒ダービー小史」は町を二分して三百年も続く原始サッカーのような競技にまつわる物語。鹿爪らしく書かれた競技の歴史と、禁断の恋が登場するのにコミカルな現在なパートの入り混じりかたがとぼけている。
最後に収められた「バス停夜想曲、あるいはロッタリー999」はちょっと毛色が違って、荒野の十字路にぽつんとあるバス停が舞台。ここは各方面へ向かう路線バスの乗り換え地点で、多くの客が乗り換えのために乗降するが、肝腎のバスは三桁数字の系統しか表示されておらず、人々は自分の乗り継ぐべきバスが来るのをひたすら待っている。いつ来るともしれぬバスを待っているうちに、バス停の周囲にはコミュニティや町がかたちづくられていく。シチュエイションといい語りといいすごく好きなんだけど、どうも話全体としては好きになりきれなかった。偏見だけどラテンアメリカ文学の雰囲気があると思う。
まあまあいいんだけど……という感じ。次が出たらまた読んではみたいかな。