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カー消し戦記 (1)

多分第4版で書いたと思うんだけど、もう一回。
小学4年生の頃、ほんの一時期だけ、クラスでカー消し*1が爆発的に流行った。地域によって形態は異なると思うが、おれらのとこではもう断然落とし合い。学校の机ひとつがフィールドで、殆ど必ず複数人でバトルロイヤルをやっていた。相手の消しゴムを落とせばそれが取れる、単純明快なルールだった。
車を動かすのには「発射台」を用いた。ボールペンの後ろでも構わなかったのだが、ボールペンはそもそも物を動かすようには作られて居ないので、少なくとも無改造では弱すぎた。「発射台」は要するにボールペンの後ろ側部分を切り落として土台をつけたもので、初期状態でもそれなりのパワーがあった。とはいえ長じるとこれでも弱く、みなそれぞれに工夫を凝らして改造した。
パワーを上げるには、単純にばねを伸ばせばいい。それである程度は強くなる。ただし、あまり強くし過ぎると引いた時に引っかからなくなってしまう。あまり伸ばし過ぎてはいけない。ばねを取り替えるという手もあった。しかしこれも強過ぎると引っかからない。経験的には、ある程度短くて強いばね、というのが最適なようだった。
また、うちだけのローカルルールだったのかも知れないが、発射台で自分の車を打つ時には、その発射台が他の車に触れてはいけなかった。バトルロイヤルだからもつれる展開は珍しくなく、ごちゃついているところでは幅の広い発射台では自分の車を打てないことがある。そのために、発射台の土台部分を切り落として筒部分だけにする改造も広く見られた。試合中に複数の発射台を使い分けるのは自由だったので、ガチプレイヤーたちは強いばねのもの、幅の細いもの、逆に弱いばねのもの、と様々な発射台を持って勝負に挑んだ。
当時流通していたのは、カー消し四つと発射台1こが入って 50 円の、言ってみれば「スターターパック」だった。この「ル・マン24時間」というのに似ていたのだけど、入っていたのはシャコタンとかヒップアップとか書いてある車で、「ゾク車」って奴なんじゃないかと思う。袋に何と書いてあったかは思い出せない。おれも最初はこれを一袋買って、出て来た4台と家にあった2台の計6台で試合に挑んだ。なけなしの車を賭けるのは気が進まなかったけど、賭け無しでは誰も勝負を受けてくれなかった。
おれは6台のうちで一番失ってもいいかな、と思えた緑色のセリカダブルエックスを出した。初心者だからといって容赦はしてもらえなかったが、かといって集中的に狙われることもなかった。なんとかうまく立ち回って1台落とすと、その日のうちにもう2台落とした。落とされることもなく初日は終えた。次の日もおれはダブルエックスを出した。また落とされることなく、3台落とした。ダブルエックスはたった1台で6台稼いでくれた。いつの間にか、失ってもいいと思っていた筈のダブルエックスに愛着が湧いていた。おれは二度とダブルエックスを勝負に送り出さなかった。
次回に続く。

*1:カー消し:車の形をした「消しゴム」。字は消せない。