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『ゲームブックの楽しみ方(ファイティング・ファンタジーシリーズ)』 安田均著 社会思想社:現代教養文庫,1990-08

まったく今更、の本ではある。ゲームブック、それも基本的には当時――1990 年現在――刊行済のファイティング・ファンタジーシリーズを中心に一冊一冊とりあげて丁寧に評論したそれだけの本。表題には「楽しみ方」とあるが、まあ方便で、もちろん楽しみ方も書いてあるにはあるが明らかにそれは主題ではない。


しかしこれはなかなかに楽しく読めた。著者は本質的にゲーマーで、それぞれの作品をそれなりにしっかりやりこんだ上で文章を書いていることが読んでいても伝わってくるし、それが時系列順に並べられていることで黎明期のゲームブックがどのような発展を遂げていったのかがよく伝わってくる。おれはこの本で取り上げられている作品はせいぜい十冊程度しか遊んだことはないが、遊んだことのある作品についてはなるほどとうなずける記述が多かったし、遊んだことのない作品についてもある程度は把握することができたように感じられた。


これを読むと「もっと範囲を広く押さえているゲームブックの歴史書があればなあ」と思ってしまう。この本が刊行される前後がおそらくゲームブックのピークで、おどろくほど多くのゲームブックが世に出ているのだ。東京創元社双葉文庫あたりがメジャーだが、ほかにも多くの出版社が市場に参戦した。中には異形の進化を遂げたり突拍子もないアイデアを実装していた作品もあったに違いないのだ。そういうところまで俯瞰しながら、ブームの終焉までを書いた本が、あるいは書かれ得るのではないか。そんな妄想をしてしまうような面白さが本書にはあった。


というわけで個人的にはかなり面白かったのだが、人に勧めるようなものではない。これを楽しめるのはやはり当時のゲームブックファンだけだろう。あるいは過去のジャンルとしてゲームブックを追って/研究している人なら楽しめもしようが、そういう人ならすでにここは通過しているはずだ。その意味でも今更の本ではあるかもしれない。