21エモン〈第1巻〉 (1977年) (てんとう虫コミックス)
- 作者: 藤子不二雄
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 1977/08
- メディア: コミック
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主人公は地球に代々続くホテルの二十一代目として跡を継ぐ予定の少年、つづれ屋 21 エモン。ホテルと言いながらもほぼ家族経営の小さなホテルで、オーナー兼支配人は父の 20 エモン、母が料理の腕を振るい(このお母さんがやたら若くて可愛いのがF先生らしい感じ)、従業員はロボットが二体。このほとんど最小構成のホテルを訪れる様々な異星人の、不思議な生態やちょっとしたドラマを描くどたばた SF コメディ、という体で最初はスタートする。おそらくこの宿屋(なり酒場なり)をいろいろな異星人が訪れるという形式は SF では古典的な形式なんだと思う。といいつつ具体例全然挙げられないが*1。『白鹿亭綺譚』は宇宙人じゃないしな。
さまざまな宇宙人の造形がかわいく、奇妙な生態やほほえましい性格、時には困った行動などでドラマを引き起こすという構成は作者のお手のもの。安定して面白いのだが、さすがに苦しくなったのか途中で 21 エモンが旅に出る展開になる。個人的にはこれはちょっと残念で、ホテルものを貫いてほしくはあった。旅編ももちろん面白いのだが、ちょっとだけ違うのだ。
しかしなんといっても本作を語る上で欠かせないのはモンガーの存在だろう。連載開始時には存在せず、最序盤にゲストからレギュラーに昇格するのだが、以後最後まで主人公の相棒として大活躍する。テレポートが使えて、なんでも食べられる、宇宙空間に出ても平気という“超生物”という設定はチートそのものだが、二頭身?のチンチクリンな姿が超かわいく、性格も憎めなくてたいへん愛らしいやつなのだ。こいつのことは初めて読んだときからずっと憶えていて、今回あらためて読んでも素晴らしかった。今だったらモンガーを主人公にしたスピンオフ作品が生まれているだろう。それぐらいすごい。
モンガーは登場当初は「ものすごく無口で一週間に一言しか口をきかない」という設定なのだけど、ある事故をきっかけに普通にしゃべるようになる。これなんてまったくご都合主義の設定変更で、今日日は嫌われそうな感じがするのだが、読んでいる分には全く問題ない。これぐらいの大らかさというのは基本的に許容されるべきものと考える。
あとこれは妻が言っていたのだけど、モブシーンで書かれてる宇宙人たちが素晴らしいんだよね。宇宙港とかで歩いてる通行人たちがけっこう丁寧に描かれていて、造形もかわいいし表情や仕草もちゃんと生きている。ただでさえページ当たりの情報量が多いのに、そういう細部にも魂がこもっているのは大したものだと思う。
ともあれ楽しい作品で、四巻で終わっているのは残念ではあるがこの密度ならしかたないかなとも思う。実際記憶の中ではもっとずっと巻数が多いと思っていた。古きよき一話完結のフォーマットでどこからでも読めるので、気になる方は一冊でも見かけたら手にとってみるのもよろしいかと。