黄昏通信社跡地処分推進室

黄昏通信社の跡地処分を推進しています

『スペース金融道』 宮内悠介著 河出書房新社,2016-08

スペース金融道

スペース金融道

タイトルからある程度想像はつくかもしれないが、宇宙の金貸しの話。
〈新星金融〉社の回収部隊として働く〈ぼく〉が、優秀だが容赦のない上司ユーセフと共に、地球が築いた最初の植民地である「二番街」をまたにかけて借金の取り立てに活躍する連作短編集。利息をつけて金を返してくれさえすれば誰にでも金は貸す、その代わり必ず返してもらうという経営方針のもとで、〈ぼく〉はさまざまな環境に乗り込んでいって奇妙な目に遭う。


人間は宇宙に進出していてさまざまな星系に住むようになっており、さまざまな他の知的生命体ともコミュニケーションを取るに至っている。それからアンドロイドが実用化されていてさまざまな場面で活躍している。どころか公民権すら認められているため、選挙権や被選挙権も持っていたりする。しかし根強い差別は受けており、経済的に困窮するアンドロイドは少なくない。そして〈新星金融〉はアンドロイドにお金を貸し付ける数少ない者のひとつだ。収録作の多くにはアンドロイドが絡んでくる。


〈ぼく〉たちの乗り込んでいく環境は一筋縄では行かず、それこそスペースコロニーだったり、巨大な博物館であったり、時にはコンピュータの中だったりする。そんな変幻自在な舞台の上で、基本的には返せ、返せない、のどたばたが展開されるのだけど、その中でちらちらとアンドロイドの生きづらさが描かれていくのがおもしろいところ。本作の設定ではアンドロイドはある程度以上賢くなることを許されておらず、「経験則を重視すること」という制約も課されていたりして、まあそもそもアンドロイドというのは哀愁を帯びた存在だけど、それ以上になにかやたらに人間らしいアンドロイドが出てきて、そいつらと不器用な〈ぼく〉のやりとりが可笑しくていとおしい。


個人的に一番好きなのはアンドロイドが入りびたるカジノ飛行船に乗り込んで勝負をする羽目になる「スペース蜃気楼」。閉鎖空間と、ニセ貨幣の経済というねたを絡めたうえにお約束のばくち勝負もあって、面白かったし盛り上がった。続巻があればまた読みたい。