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『復活の地』全3巻 小川一水 ハヤカワ文庫JA,2004 ISBN:415030761X/ISBN:4150307660/ISBN:4150307709

わりと今更ながら買って速攻で読了。面白かった。
帝都を襲う未曾有の大地震と、そこから帝国が立ち上がるさまを描いた「災害復興小説」とでも呼ぶべき話。官僚である主人公が復興にたずさわるというのが面白い。災害に対して政府というものが、あるいは人々が如何にあるべきかを丁寧に描いている。地震という、日本に住む者にとっては決して他人事ではない題材を敢えて選ぶところに作者の意気込みが現れているし、被災経験の全く無いおれから見る限りでは状況描写には説得力がある。
地震に対する人々の動きを物語の縦糸とすれば、天災によって従来の権威がほぼ力を失った状況が現出しているため、それを奇貨として動く様々な者たちの動きが横糸と言える。都の内部/外部、国の内部/外部、星の内部/外部、と多層に渡る対立と交流が描かれて、縦糸だけでは地味になってしまっただろうストーリーに巧く起伏を与えている。冒頭に災害を置いて、3巻に至って新たな災害が襲いかかるという構成も、地震の原因も含めてよく工夫されている。
要所で描かれるのは、さまざまな立場にある人々の「心意気」。原則や規則といった形になっていない「なすべきこと」を、全ての人が可能な限りやれるのだとすれば、大きな災害から自分たちを救うことすらできるのだということ。そのためにはなすべきことを知り、それがうまくいくための方法を知り、それを実行する強い気持ちを持たなければならないのだけど、不可能なことである筈がない、と作者は淡々と語り続ける。
ちょっと残念なのは、登場人物の、特に星間列強諸国のエゴが全体的に弱く、みんな多かれ少なかれお人好しな印象は否めないこと。これも含めて作者の味かも知れないが、物足りなく感じる人も居るだろうと思う。
これ書こうと思ってたらちぃといつさんが『第六大陸』について書いててちょっと面白かった。


小川一水の作品の魅力はプロットではなく、登場人物が持っているプロフェッショナルとしてのプライドというか、意地というか、そういうものを描いているところにあると思いますので、
第六大陸』は以前読みましたが、確かにそうですね。『復活の地』にも明らかに通底している部分だと感じます。