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『エンジェルフライト 国際霊柩送還士』 佐々涼子著 集英社,2012-11

エンジェルフライト 国際霊柩送還士

エンジェルフライト 国際霊柩送還士

海外で亡くなった人は、その後どうされるかご存じだろうか。現在は、基本的には遺体を日本に送る、ということになっているようだ。しかるのちに日本で周りの人がお別れを告げ、お墓に入れられる。しかしそのためにはそれなりの手筈が必要になる。みもふたもなくいえば、傷を修復したりとか、保存のために冷やしたりとかそういうことだ。そういったことを専門に執り行っている会社が日本にもある。本書のタイトルには国際霊柩送還士とあるが、実際にはその会社――エアハース・インターナショナル社の話という側面がけっこう強い。章立ても半分くらいは同社の社員個人が章題になっているほどだ。


とはいっても業界自体が寡占状態なのでそうなることはある程度避けがたく、そしてそれはそれで中々面白い。やはりこのような業界に敢えて自ら身を置くような人は多かれ少なかれ常人離れしたところもあり、またその人たちの魅力が会社の魅力になっている部分もあるのだろう。
特に創業者で現社長である木村利恵氏のキャラクターはかなり強烈で、この会社はこの人によってここまで来たのだろうなというのがぼんやりと想像できる。いかにも NHK の「プロフェッショナル」とかに出てそうな感じ、というか。それで余計なお世話ながら、この人抜きでもこの会社は成立するのだろうか、というようなことは考えてしまった。


職業紹介としても文句なく面白く、業務の内容、よくあるトラブル、海外とのやりとりにまつわる困ったエピソード、などが書かれているが、大抵の人には存在すら知られていない業界の内幕をよく描けている。
ただ、いささか筆致が感情的に過ぎるところはあって、死を扱う以上逆にそれは遠ざけておいてほしかったかなとは思う。特定の顧客のエピソードを順を追って書いた章は、必要以上の感情移入を求めてしまっている印象があった。あとは、エアハース社に対する思い入れも少し強すぎる。


題材は面白いが、料理の仕方にはちょっと首をかしげるところがあった。読む価値はあるが手放しでおすすめはしない。