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『トラクターの世界史――人類の歴史を変えた「鉄の馬」たち』 藤原辰史著 中央公論新社:中公新書,2017-09

タイトルの通りトラクターの歴史を語った本。トラクターがどこで誕生してどのように広まり、どう進化していったかを時系列で語る。最初はもちろん性能が低かったこともあるけど、それまでそのスロットを担っていた馬に代わって鉄の塊がやってくるというのにはやはり抵抗が大きかったらしい。そのあたりの「空気」を実体験者の出版物などからの引用で再現しようとしているのは面白かった。
個人的に興味深かったのは技術的なブレイクスルーがトラクターの利便性を劇的に増大させたということがあったらしいことで、特に「三点リンク」というトラクターと牽引用アタッチメントを接続する機構は革命的な発明だったそうな。ぱっと見るとなんということはない文字通り三ヶ所のリンクが三角形に並んでいるだけの機構なのだけど、今に至るまで使われているのだそうだ。そういうのってなんとなくぐっとくる。
もうひとつは PTO、すなわちパワー・テイク・オフというシステムで、ようするにトラクターのエンジンの動力を外部に取り出すことができる機構なのだが、これもとてもすぐれものであるらしい。現在では標準化が進んでいて、決められた直径の回転するシャフトという形で動力を供給するのだが、そのシャフトにたとえば回転式の犂刃を接続して使う、ということもできるし、牽引時に限らず圃場で使う他の機械を接続することもできる。つまりトラクターを単なる耕耘機としてのみならず、可搬式のエンジンとしても使うことができるようになったということだ。
もちろんこういう技術的な話以外にも、たとえば不整地を突き進む車両としては戦車にその技術が転用されたりとか、ナチスドイツやソヴェート、中国では農業の進歩のシンボル的に扱われて、つまり政治的に利用されることもしばしばあったとか、そんな話もそれぞれに面白かった。





2017 年分はこれで終わりです。半年以上遅れている! さすがにばかみたいなのでちょっと今追いつく作業中。
まとめもそのうち作るつもりです……。