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『うなぎばか』 倉田タカシ著 早川書房,2018-07

うなぎばか

うなぎばか

ポスト・うなぎアポカリプス短編集。そんなカテゴリあんのかという話だが、本書こそがこのカテゴリのパイオニアだ。それぞれの作品は独立していて登場人物も異なるが、「乱獲によってうなぎが絶滅した近未来」が舞台であるという点は共通している。
表題作「うなぎばか」は、鰻屋の息子として生まれた主人公が地元に戻るところから物語が始まる。偶然出会った幼馴染、鰻文化保存会を名乗る人々、主人公の母親、そして父親、と次々に登場人物があらわれ、状況がどんどん変化していく。どたばたがちょっといい話に着地するあたりはなかなかこなれてるなという感じ。
「うなぎロボ、海をゆく」は鰻型海洋巡回ロボットの一人称(?)で描かれる近未来の水産資源監視を題材にした作品。本書の中では一番 SF らしい SF であると思う。ロボット一人称を活かした叙述の工夫が面白さにつながっている。
「山うなぎ」はうなぎの代用品である“山うなぎ”を日本に売り込みにきたエージェントに案内されて日本の商社で働く四人の女性が山うなぎの産地であるというブラジルの山奥を目指す話。四人はかつてその商社が持っていた女子バレーボール実業団チームの元選手で、体力を買われてこのプロジェクトにあたることになった。とかなり苦しい設定なのだが問題提起としては意外とまじめで面白い。ほんとうにこれが山うなぎとして流通したら、と考えることや山うなぎにあってうなぎに無かったものはなんなのか、とか考え出すと興味深い。
「源内にお願い」は出オチ感のあるタイトルで、土用の丑の日にはうなぎを食べようというキャンペーンの発案者であると言われている平賀源内に、タイムマシンを使って会いに行ってキャンペーンをやめてくれとお願いする話。それだけだとそのままなのだけど、タイムマシンの持ち主とか、時間線についての考え方とか、平賀源内のキャラクターとか、いろいろ詰め込まれていて楽しい。おちについては結構こういうものかもな、と納得させられるところがあった。
トリを飾るのは「神様がくれたうなぎ」。主人公の前に神様があらわれてひとつだけ願いをかなえてくれるという「願い」ものなのだけど、なぜかその神様が自分の失敗を尻拭いさせようとしてくるへんてこな話。いい話っぽく着地させる手つきは見事というかなんというか、だまされたような気分でもある。
うなぎがテーマだからか、「うなぎロボ、海をゆく」以外はどれもコメディタッチの物語が多いのに、読んだ後に一抹の寂しさが残るのが不思議だった。十年かそれぐらい後に、うなぎの行く末がもう少ししっかり見定められたら、また読んでみてどんな感じがするか確かめてみたい。