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ツール・ド・フランス 2020 第9ステージ

この日は面白かった。4級、1級、3級、3級、1級と山を越える山岳ステージ。最後は下り坂の後平坦が 8km ぐらい続いてゴールになる。序盤は激しい逃げ争いになったらしいのだが、観始めた頃にはマルク・ヒルシ(サンウェブ)の単独逃げが決まっていた。ダウンヒルを得意とするヒルシは下りを利して差を広げ、一時は四分以上のリードを奪う。一方でメイン集団ではユンボ・ヴィズマが強力な牽引を開始し、上位から各チームのエースがだんだん振り落とされていく。ここがめちゃくちゃ面白かった。マイヨ・ジョーヌを着たアダム・イェーツ(ミッチェルトン・スコット)は何回かのアタックでとうとう力尽き、ギヨーム・マルタン(コフィディ)、ナイロ・キンタナ(アルケア・サムシック)、ロマン・バルデ(AG2R)も遅れ始める。抜け出したのはポリモシュ・ログリッチユンボ・ヴィズマ)、タデイ・ポガチャル(UAE チームエミレーツ)、ミケル・ランダ(バーレーンマクラーレン)、エガン・ベルナル(イネオス・グレナディアーズ)の四人で、この四人で最後の山頂のボーナスポイントを奪い合ってから前を追う。独り必死に逃げるヒルシ。ペダルを回さなくても下れるぐらいの坂であればひとりの方が速い。残り 5km のアーチをくぐったとき四人に対するリードはまだ 25 秒あった。しかし無情にも、残り 3km 付近でゆるい上り坂が待ち受けていた。一気に差が詰まり、追走四人の視界に捉えられると、ヒルシは一旦スピードをゆるめて四人の後ろについた。だがヒルシは諦めてはいなかった。ローテーションには加わらずにじっと五番手を走り最後のワンチャンスを狙う。残り 400m で、最後尾からヒルシは真っ先に動いた。90km 以上たったひとりで逃げ、あと 2km 強でつかまりながらもなお、自分から動いて勝負に行った。そして実際四人を交わして先頭に立ったのだ。すごすぎる。だが伸び切れなかった。ポガチャル、ログリッチスロヴェニアコンビが差し返し、僅差の3位に終わった。しかし僅差の勝負をできるだけで驚異的だし、ランダとベルナルは実際押さえてみせた。文句なしの敢闘賞だったが、到底それにとどまらない快走だった。勝たせてやりたかった。……とはいえヒルシは既に U-23 のヨーロッパチャンピオンと同じく U-23 の世界チャンピオンのダブルタイトル所持者であり、ステージぐらいは早晩どこかで勝つであろう。なんなら今年このあと勝っても不思議ではない。これでまだ 22 歳というから末恐ろしい。ポガチャルは 21 歳らしいけど。
マイヨ・ジョーヌはついにログリッチ、すなわち本命2チームのうちの片方であるユンボ・ヴィズマの手に渡った。もう1チームのイネオス・グレナディアーズのエース、ベルナルが 21 秒差の2位。以下マルタン、バルデ、キンタナ兄、ウラン(EF プロサイクリング)、ポガチャルまで七人がトップから1分以内にひしめいている。最初の休養日でこれはかなり接戦と言えるのではないだろうか。ちなみにこの七人、コロンビア人三人、フランス人ふたり、スロベニア人ふたりという内訳になる。面白いぐらい偏っている。