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『逆転世界』 クリストファー・プリースト 安田均訳 東京創元社/創元SF文庫,1996 ISBN:4488655033

ちょっと前に読了してたんだけど、遅ればせながら感想。
世界の特異さは昔ながらのSFらしい設定で、成人した主人公が各ギルドを巡って少しずつ世界の構造を理解して行くストーリーはべたながらよくできている。もの凄く大きな「嘘」をひとつ置いてから、それに従ってディテイルを作り込んで行く伝統的な手法もはったりが利いていて説得力がある。こんなことよく思いつくな、と思うと同時に、よくその発想からここまで世界を持ってくるな、と感じずにはいられない。サイエンス・フィクションの大きな魅力のひとつが体現されている。それだけの世界を作り上げているからこそ、後半の展開と終盤の転回もおおっと思わせるものがあった。面白い。
ただ、作者の云う

私が気にいっているアイデアの一つは、二つの共存する現実について語ることにあり、そこにSFのすぐれた主題があると思うのです。

について少し釈然としない部分が残る。それを言うなら、この作品では終盤になってしまっている部分をもう少ししっかり語るべきなんじゃないだろうか。もちろん今の形でもこれはこれでいいと思うけど、作者の言葉を見てしまうとどうしても放り出された印象は拭えない。