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『Ashes and Snow』グレゴリー・コルベール ノマディック美術館

グレゴリー・コルベールは写真と動画を中心に創作を行っている作家で、ノマディック美術館というのはコルベールの今回の展示「Ashes and Snow」を行うために設計された移動式の美術館である。ニューヨーク→サンタモニカと移築され、今回東京は台場に回ってきた。というような話は無論全く全然知らなかったのだが、先日姉のところを訊ねた時に話を聞いて小型の写真集を見せてもらい、中々よさそうだと思ったので行ってみた次第。
東京テレポート駅に着くと案の定と言うべきか、チケットを買う列に 30 分、そこから入場まで 30 分といった具合でずらーっと列ができていて、評判の高さをうかがわせた。しかもなんか若くておしゃれな人が多いんだよ。なんかまたおれ下げてるよ、みたいな。何をだ。ともあれまあ、そういう雰囲気ではあった。
コンテナと耐水シートによって組み上げられた構造物は天井が高く独特の開放感と危うさがあって、これはなかなか面白い試みと思う。しかし空調が設置できないため会期の初期は日によっては恐ろしく寒かったと言うし、今日はご想像もつくだろうが暑かった。写真を見ているところではまだいいのだが、途中映像が3本あり、中の1本は 60 分にわたる長いフィルムなので、そこはなかなかしんどかった。
写真も映像も、描かれているのは人と動物の関わりで、画面の中では人間と動物が驚くほど自然な表情で寄り添っていて、一体どうやったらこんな風に撮れるものだろうかと思う。その一方で関わり方自体は作為に満ちていて、少なくとも人間の側の生活とか日々の営みみたいなものは一切取り払われている。人は無表情か眠っているかどちらかで、そこがどこなのかなにをしているところなのかさっぱりわからない。そして「想像の余地をより多く残すために」解説は一切つけられていない。
というわけで凄く綺麗な絵が一杯撮れているのだけど(おそらく途方もない時間がかかっているのではないだろうか)、そしてそれは本当に素晴らしいのだけど、なんともその切り離された感じが不思議だった。
個人的に印象に残ったのは象の目の周りを大写しにした写真で、普段触れていないからよく知らないのに皺や皮膚の質感に「味」があるなあと思えた。それは無意識に人間の顔に対する判断を準用してしまっているのか、それともその象と写真の持つ力なのかはわからないけど、不思議と惹かれるものがあった。
最後に、あちこちで言われてるだろうけど、図録が高過ぎる。いい紙使うのも素晴らしい印刷屋使うのも結構だけど、16800 円てなんだよ。流石に無理だろ。ただでさえ結構いい値段(1900 円)払って入場してる客に対して追い打ちみたいな価格設定。図録ってのは展示に感銘を受けた人が手元でその記憶を蘇らせることができるように売るものじゃないのかなあ。もちろんある程度しっかりした紙と製本は必須だと思うけど、でもその範囲でなるべく多くの人に行き渡って欲しいものなんじゃないのかね。普通の値段でも買わなかったと思うけど、なんだか妙に冷めてしまった。
お台場、りんかい線東京テレポート駅目の前。ゆりかもめお台場海浜公園駅青海駅からでも全然行ける。明日まで。