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『ウェットウェア』 ルーディ・ラッカー著/黒丸尚訳 ハヤカワ文庫SF,1989 ISBN:9784150108458

ラッカー十番勝負その7。
その3でとりあげた『ソフトウェア』の続編。前作において月面で革命を成し遂げたはずのバッパーたちはしかしほどなく自滅、月は再び人間たちの支配下になる。スタアンと名を変えた前作の主人公“ステイハイ”・ムーニイは、妻ウェンディを失い失意のうちに月で私立探偵として暮らす。新たに開発された《融合/マージ》という身体がどろどろに溶けてしまう麻薬に絡んだ依頼を受け、捜索を続けるムーニイだが、やがてバッパーたちが《マージ》を用いて人間社会に喰い込もうとする陰謀に巻き込まれていく。
前作が人間という器から魂というソフトウェアを取り出しちまおう、という話であるとすれば、今作は逆に人間以外から産み出されたソフトウェアを「肉バップ」というウェットウェアに放り込んでみよう、という話になるかな。ラッカーは魂の遍在性と普遍性に強い拘りがあって、逆に器にはとても無頓着に見える。でも多分そういうわけにいかないよなー、とおれなどは思ってしまう。おれというソフトウェアは、おれ以外のハードウェア/ウェットウェアで走るんだろうか? 走ったとして、それはおれと同一性を保持してるんだろうか。
とはいうものの、SF 的には面白いアイデアで、実装手段もひどく大雑把なのがラッカー節。これじゃうまくいかないんじゃないの、と思わせておいて案の定うまくいかないのはもはやお約束みたいになっている。それでも序盤から中盤の似非サスペンス調とか、後半どこまでいってしまうのかさっぱりわからない展開は楽しめた。そしてまたしても最後は何故かハッピーエンドっぽくなって次作に続く。
マージの存在が現実離れしている上にいまいち上手くストーリーと絡んでいなくて(アイテムとしては面白いんだけど)、その辺りで完成度が低くなっている印象はある。前作よりは些か劣るといったところ。