黄昏通信社跡地処分推進室

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息子を風呂に入れていて、風呂桶のふち(風呂桶が掘り下げになっているので低い)につかまり立ちさせて上からお湯をかけようとしたら、前に身を乗り出してバランスを崩し、止める間もなく頭から湯船に落ちてしまった。慌てて掴んで引っ張り上げたが、少しの間声も出ず、その後泣き出した。どうも反射的に息を止めていたようで殆ど水も飲んでいなかったが、流石に結構長いこと泣き続けた。悪いことをした。でもここで止めるわけにもいかないので、少し収まったところで普通に頭と身体を洗い湯船に入れた。ずっと泣いていた。

おれがまだはいはいをしていた頃、父の会社の保養所みたいなところに家族で遊びに行ったことがあった。2階の部屋に落ち着いてから、母が少しその場を離れる用があって、父におれを見ておくように言いつけた。しかし父はどういうわけかおれから目を離してしまい、その隙におれは階段まで這い進んで、ものの見事に転落した。おそろしい音が響き渡った。階段の下は玄関で、おれはそこまで転がって頭を打ち、眉のあたりを切った。もちろん憶えていないし、傷痕も殆ど残っていない。おれ本人にとっては、何度か聞かされた乳児時代のエピソードのひとつに過ぎない。
しかし親になってみてわかる。その音が聞こえた時、両親が文字通り血の凍る思いをしただろうことが。頭から血を流して倒れている我が子を目にして、一瞬にして最悪の事態を思い描いたことだろうことが。それを思うと、結果的になんともなかったことを抜きにしても、父を責める気にはなれないのだ。その瞬間から数時間の間に、行いの報いを充分過ぎるほどに受けただろうから。

ちうわけで、ごめんよ。