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[帽子に花を咲かせましょう]心に残るゲームたち (32-2):『WIZ』

■『WIZ』 セイブ開発タイトー/アーケード,1985
前回(32-1)書いた通り、今回はアーケード版の『WIZ』をとりあげる。
アーケード版『WIZ』は 1985 年、タイトーから発売された。開発は後に『雷電』で大いに名をあげるセイブ開発だが、その頃はメーカー名も殆ど知られていなかったと思う。当時は、開発元と発売元が別会社の場合は発売元の会社の名前だけが表に出ることが一般的だった。(あるいは、販売網を持つ大手メーカーが販売を受け持つことが多かったためにそうなっていたのかも知れない。)おれ自身もかなり後になるまでこのメーカーのことを知らなかった。
ゲーム自体は前回説明した通り、比較的オーソドックスな横スクロールアクションゲームなのだが、縦画面なのは少し珍しい。上部の四分の一ほどがスコア、残り時間を表す砂時計、現在使える魔法といった状況表示で占められていて、メインスクリーンは正方形に近い形になっていた。
操作系は8方向レバー1本とボタンふたつで、片方は魔法選択、もう一方が魔法発射。普段は魔法の杖(いちおう「SHOOTING」という魔法)を使うことになっていた。ジャンプはレバーにアサインされていて、MSX 版と違って下方向にレバーを入れることで普通に下段にも下りられた。
アーケード版の特徴として、いささかややこしい面構成がある。スタート時はラウンド2から出発し、右へ右へと進んでいくのだが、この面は MSX 版のステージ1にあたる。ここは「地上」と呼ぶべき描かれ方をしている。ここでは宝箱が出たり灰色の煉瓦が出たりデンも登場したり、比較的 MSX 版にも忠実に移植されていた部分といえる。
ところが、ラウンド2で地面に開いている穴に落ちるか、デンの魔法に捕まるかすると、主人公は地下世界に落とされてしまう。そこが実は「ラウンド1」となっている。ここでも主人公は同じように右へ右へと進んでいく。逆に、ラウンド2で黄色い風船を取ると、主人公は雲の上に運ばれる。こちらが「ラウンド3」だ。
つまり、3つのラウンドが上下三段にわたって平行に配置されていることになる。ラウンド1とラウンド2では、右端までたどり着くと扉が待ち受けていて、その扉の中に入るとラウンド3のスタート地点(左端)に進むことができる。そして、ラウンド3で右端までたどり着くことができれば、ボスであるドラゴンが待っている。
個人的には、上下三段の世界が配置されていて、互いに行き来できるというのはとても魅力的で楽しいアイデアだと思う。それぞれの世界に挙動が対応する敵キャラが居たり、地下世界では青い煉瓦が凍り付いて壁に埋まっているのが見えていたり、独立しているようでありながら関連性を感じさせるデザインも面白かった。
ただ、それにラウンド1から3を割り振ってしまったのはいささか無理があるというか、蛇足に近いフィーチャーではないかと感じる。地上や地下で右端までたどり着いた場合どうすればいいか、というのを考えたときに、そうせざるを得なかったのかも知れないけど。
グラフィック、特にキャラクターデザインも独特だった。主人公の風貌からして「首から足下まですっぽり覆う赤いローブに、深々とかぶったつばの広い帽子で目元まで隠れている」というもので、少なくともあまり主人公らしくはない。(初期ファイファンの黒魔道士が妙にこのグラフィックに似ていて、初めて見たときはえらくびっくりしたのを憶えている)
敵も地上の敵はまだまともなのだが、地下に行くと、頭蓋骨に二本脚が生えたような奴とか、太めの蛇みたいな姿で口から水鉄砲を吹きながらぴょんぴょん飛んでくる奴とか、異形の敵がたくさん出てくる。当時の描写力であるからグロいというほどのものではないのだけど、でもどこか不気味なデザインだった。
BGM も印象深い。ステージごとに違う曲が使われているのだけど、一番耳にする地上の BGM は比較的アップテンポながら音色にどこか哀愁が隠れているし、天上界の曲は早足でずんずん突き進むようなメロディラインだった。
全体的に、どこか昏さのような、寂しさのような、影を持ったゲームであったと思う。斬新な要素があったわけじゃないけど、妙に心に引っかかるところがあるのは、たぶんそういうところだ。
時間制限についてだけは不満が残る。このゲームではプレイヤーが右にレバーを入れない限りゲームが進まないから、当然時間制限がある。画面の中央上部にでっかい砂時計が表示されていて、刻々と砂が落ちていくわかりやすいビジュアルで表されているのだけど、その制限がものすごくきつい。もう殆ど無駄足なしで右にレバーを入れ続けてようやく中間のチェックポイントに間に合うか、というレベルなのだ。折角の自由スクロールなのに、プレイヤーはその自由を殆ど享受できない。もっとも、おかげで「QUICK」の魔法の価値が上がっている面はあるのだけど。
おれがゲーセンに足繁く通うようになった頃には、このゲームはゲーセンから姿を消していた。このゲームを遊んだほぼ唯一のゲーセンは、地元というにはちょっと離れたところにあるガレージみたいなところだった。弟が教えてくれたのだが、今でもあれがゲーセンだったのかどうかおれにはよくわからない。妙に広い1階のスペースの手前の方に小さなアップライト筐体と得体の知れないエレメカが並んでいて、店の人が居るのを見たことがなかった。1ゲーム基本的に 20 円で、ロゴだけ『SUPER』ってついてる普通のゼビウスとかが置いてあった。
何度か通って頑張ったのだが流石にプレイ回数も少なすぎて、ラウンド3の中間地点ぐらいまで行くのが精一杯だった。後年秋葉原で見かけてちょっとやってみたりもしたのだが、案外難しく、やはり先へは進めなかった。その意味では消化不良の感覚は残っている。
でもそれよりも、兄から聞いた話や、奇妙に暗い世界や、様々な魔法や、がらんとしたガレージやなんかが、おれの中でこのゲームにまつわる記憶として渾然としている。そしてそれは、あの頃の異世界そのものに対する憧れと、根っこの方でつながっている。

  • 魔法の種類は MSX 版とほぼ同じなので省いた。「クリスタル」がなくて、代わりに「BARRIER」があった。主人公を中心に1キャラ分の大きさのバリアを貼る魔法。それと「ミクラス」は単に「HELPER」という名前だった。
    • 上でも少し書いたが、QUICK が極めて重要だった。一度は打たないと、中間地点にすら殆ど間に合わない。
    • ミクラスは『ウルトラセブン』のカプセル怪獣ミクラスにどことなく風貌が似ているためその名がついたとかいう噂があるようだが詳細は不明。
    • MSX 版と違い、持っていない魔法にもカーソルを合わせることができる。その状態で魔法発射ボタンを押すと、帽子の上に花が咲く。花は一定時間咲き続け、その間は魔法が使えなくなる。「SHOOTING」すらも使えなくなってしまうが、その間は「HITTING」という表示になって、杖を振り回して直接ぶん殴ることで一応攻撃できた。
  • 「手」はアーケード版では半分手を広げ、指を軽く曲げた状態で飛んで来る。捕まるとひとつ下のラウンドに落とされてしまう、かなり厳しい敵。
  • セイブ開発の名は多分『ダイナマイトデューク』辺りで初めて知ったと思う。その時だったかどうかわからないが、『WIZ』を作ってたところ、という認識は一応あった。『雷電』がリリースされて、隠れキャラでミクラス(ヘルパー)が登場した時はちょっと嬉しかったがそれ以上にびっくりした憶えがある。会社側としてはそれなりに思い入れがあったゲームだったのだろうか、それとも単にたまたま可愛いめのキャラクターとして選ばれただけだったのだろうか。
  • 元セイブ開発グラフィックデザイナーのウェブページ。これを見ると、MSX 版にも関わっているようだ。ゲーム自体はセイブ開発で作っていたのだろうか。