黄昏通信社跡地処分推進室

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世の中には汗をかかない人というのがほんとにいる。10 年ほど前の 11 月、おれは長袖シャツの上に確かトレーナーとセーターを重ねて着るという服装で結構辛いカレーを食べ始めた。それでも食べ始める前はちょうどよかったんだけどまあなにせカレーであるから熱くて辛く、ほどなくおれは汗をだらだら流し始めた。セーターを脱ぐだけでは到底足りず、トレーナーまで脱いでなお汗をかいていた。
そこで同行者のひとりをふと見ると、文字通り汗ひとつかかずに、しかし結構大変そうにカレーを食べている。暑く/辛くないのかと訊くと、暑いし辛いがとにかく汗はかかない質なのだという。自分がひどく汗かきでしばしば難儀するのでそれまでは汗をかかない人を漠然と羨んでいたのだが、そのときの同行者の様子を見ておれは初めて汗をかかない人はかかないなりに大変なのだということを悟った。そのぐらいあの時のカレーは熱くて辛かったのだ。
時は流れ電力不足と節電の夏、おれは相変わらず汗かきで、空調の入らない部屋ででろでろ汗を流している。4月に異動してきたばかりだが早くも「一番暑さに苦しんでいる人」というレッテルを貼られつつあるようだ。だがおれはあの時のカレーを思い出さずにはおれない。この夏一番苦しんでいるのは、汗をかかない人の方である筈だ。