黄昏通信社跡地処分推進室

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ショベルカーでビルを壊す100の方法(powershovel 100)

そんなわけで先日も実家のマンションの廊下の窓から近所の屋上を見下ろしていたら、近所の解体中のビルが目に入った。4階建てだか5階建てだったのだが、解体が始まってからは一番上まで仮囲いされてしまって地上からだとまったく姿が見えなくなっていた。驚いたことに最上階にそれなりの大きさのパワーショベルが置かれていた。そして屋上はほぼ壊されていた。


その日は日曜日だったので作業はしていなかったのだが、父によるとある日大型のクレーンが来てパワーショベルをひょいと屋上に載せていったのだそうだ。それからパワーショベルは建物を壊し始めた。床の真ん中に穴を開けて、それから周りの壁を「かじりながら」(これは父の使った表現。業界用語っぽいがその場では聞かなかったので不明。父はこっち方面の業界とはまるっきりの無縁でもないが用語とかはそんなに知らないんじゃないかと思う。)がれきを下の階に落としていくのだという。おそらくそのがれきで坂を作って下の階に降りているのではないかということだった。また時々1階からがれきを外に運び出し、トラックに積んで捨てに行っているらしい。まず重機を屋上に載せるところも含めて、なかなか想像のつかない壊し方だった。しかし確かに民家に隣接していて商店街もほど近く、たとえばスラッガーを振り回すわけにはどう考えてもいかない。おそらくはそれほど珍しくないメソッドなのだろう。ただ目につくことが少ないだけで。


もうひとつ面白いのは、作業中ずっとひとり作業員が横についててホースで水をかけ続けているらしいこと。ほこりを立てないためなのだろうけど作業中の重機の側でただ水をかけ続けるというのはすごくしんどい作業だろうと思う。父はあれ自動化できないもんかなと言っていたが、おそらくまさに作業しているポイントにかけないとあまり意味がないし、そのためにはパワーショベルのアームの先端あたりからある程度方向のコントロールできる水が出る必要があり、ホースのとりまわしも含めてあまり現実的ではない気がする。


そのビルの一面は小さな空き地に面していて、かつては子供たちがその壁に向かってフライを投げ上げては跳ね返ったボールを取って遊んでいた。だからビルの壁には文字通り無数にボールの跡がついていて、特に下の方は跡と跡がびっしりくっついて壁全体がボールの当たった色になっていた。上の方にいくほど跡はまばらになっていたが、しかし驚くほど高くにもぽつぽつと楕円形の跡はついていた。跡自体は後年塗り直されたんだかそれとも単に風化したんだかでもうなくなってしまっていたのだが、とうとうその壁自体も無くなってしまうことになる。残念ながら僕はあまりにもボールを投げるのが下手だったので、そこに跡を残したことは無かったのだけど。