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『虚構世界はなぜ必要か?:SFアニメ「超」考察』 古谷利裕著 勁草書房,2018-12

虚構世界はなぜ必要か?: SFアニメ「超」考察

虚構世界はなぜ必要か?: SFアニメ「超」考察

はてなダイアリー「偽日記@はてな」でおなじみ*1、古谷利裕氏の著作。勁草書房のウェブサイト「けいそうビブリオフィル」で連載された評論を大幅加筆修正の上一冊にまとめたもの。SF とアニメは親和性が高く、古今さまざまな作品があるわけだけど、様々な作品をいろいろなテーマから語っている。ひとつのテーマでひとつの作品の回もあるが、どちらかというとひとつのテーマで二三の作品を串刺しにして共通点や相違点を語る回が多い。たとえば「ほしのこえ」と『トップをねらえ!』で相対論的な経過時間のギャップの描かれ方がどう異なっているか、とか、『ソードアートオンライン』『電脳コイル』『ロボティクスノーツ』における仮想現実、とか。
文章は読みやすく考察も面白くて楽しく読んだのだけど、なんといっても流石に取り上げられている作品を見ていなさすぎて(章題に登場するだけで 20 作品以上あるが、そのうち三作品しか見ていない)、考察そのものに対してなにかを言うことは難しい。しかしまあ、おれですら面白かったのだから、登場する作品を数多く見ている人はもっと面白いだろう。
冒頭の、そして書名にもなっている「虚構世界はなぜ必要か」という問いについては、文字通りの意味では自明なんだけど*2、ここではそうじゃなくて、例えば 1970 年代の名作とされる作品でも描かれ方によっちゃ今となっては白けるよね、みたいな話があって、フィクションがフィクションとして力を持つのは必ずしも自明じゃない、ということが本当の命題になっている。そこは面白かったです。なんだかんだ言って、自分もフィクションを摂取するうえではそういうことは多少たりとも意識はしているのだろうし。

登場する作品:
ビューティフルドリーマーエンドレスエイトまどか☆マギカ攻殻機動隊lainソードアートオンライン電脳コイルロボティクスノーツほしのこえトップをねらえ/AURA、中二病でも恋がしたい!/涼宮ハルヒの憂鬱ゼーガペインシュタインズゲート逆襲のシャアガンダムUCガッチャマンクラウズマイマイ新子と千年の魔法この世界の片隅にけものフレンズ君の名は。輪るピングドラム

*1:現在は偽日記@はてなブログ。→https://furuyatoshihiro.hatenablog.com/

*2:強いて言えば「虚構でしかあらわせないことが世の中には限りなくあるし、そのように作られたものでしか持ち得ない『心を動かす力』というのがあるから」といったところか。