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『自閉症は津軽弁を話さない 自閉スペクトラム症のことばの謎を読み解く』 松本 敏治 KADOKAWA:角川ソフィア文庫,2020-09-24

※単行本は 2017 年刊行。
ちょっと前にこの記事→【「自閉症は津軽弁を話さない」この謎に挑んだ心理学者が痛感したこと(プレジデントオンライン)】がバズっていたが、それとは関係なく妻が貸してくれて読んだ。本の存在自体は mono-series '19 で知ったと思う……が、出題されたときおれはうろ覚えながら「方言をしゃべらない」という正解を出した憶えがあるので、実際にはそれより前から知っていたはずだ。知識とはそういうもんなのだろう。
心理学者である著者が、心理士である妻の何気ない「自閉症の子どもって津軽弁しゃべんねっきゃ(話さないよねぇ)」というひとことをきっかけに、それは事実なのか、事実とすれば何故か、津軽弁に限った現象なのか、を調べていく。地道な科学調査の過程を丁寧に書いているので正直もどかしさはあるが、それだけに強い説得力を持って論が立ち上がってくる。パキッと割り切れるような話ではもとよりないのだが、あるところまでは明確に事実として認定できるようだ。その理由を考察する上で踏み込んでいくことになる自閉症者のコミュニケイションやその学習についての話は知っているようで知らなかったことも多く、たいへん興味深かった。
しかしこれだけ丁寧に段階を踏んで論証しているのに、同分野の研究者には相手にされないことも多かったらしく、定説ではない理論を提示することがいかに難しいかということを間接的に知ることができたのも収穫だった。

読みやすい本でもあるし、これ以上内容には触れない。気になる人は読まれるのが手っ取り早いかと思う。