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GOTH 二題

今更ながら。

『GOTH 夜の章』/『GOTH 僕の章』 乙一 角川文庫,2005 ISBN:4044253048ISBN:4044253056

ハードカバーで長いこと敬遠してたのだが、文庫に落ちたので買う。しかし何故か二分冊でしかも薄い。内容的にも分けた意義は感じられず、価格を吊り上げるためと言われても仕方あるまい。
作者は「妖怪の話を書こうと思っていたらいつの間にかこんなのになっていた」(大意)とあとがきで書いているのだが、にもかかわらず謎を中心に据えてストーリーを運び、なおかつトリッキーな叙述で意外性をもたらす、という形を取っていて、それがこの作者の本領というところはあるのだろうと思う。
その中で展開される物語は適度な意外性もはらんで面白いし、作者の他の作品では時々見られる文章の流れの悪さ、というか端的に言えば下手な部分が、主人公のキャラクターのためか目立たなくなっている。連作全体の流れも、もともと単独で書き始めた話と思わせぬほどには綺麗につながっている。作者の作品の中で一番よく出来ている物語と言ってもいいのではないだろうか*1
妖怪の話だけあって?、グロテスクな描写は実際あり、嫌いな人なら近寄らないのが無難。そこまでして読むようなものではない、とは言える。そうでないなら、特に「乙一ちょっと気になってたんだよね」という向きにはおすすめしたい。

『GOTH』 大岩ケンヂ乙一 角川コミックス・エース,2003 ISBN:4047135534

上の作品のコミック化。大岩ケンヂはこれが初単行本だが、そうは思わせないほど絵が上手いし漫画も上手。ちょっと駒割りがごちゃごちゃしてるが、原作つきでページ数に制限があるとある程度は仕方ない部分もあるのかも。もともとそういう作品だし、ビジュアル化すればますますグロテスクであるのは避けがたいんだけど、透明でちょっと乾いた描線のおかげでそこまで陰惨なイメージにはなっていない。
原作の持ち味のひとつにトリッキーな描写があるだけに、漫画化した時そこら辺どういう風に処理するのかなあ、と思っていたのだがそれも中々そつなくこなしている。原作とは多少構成や順番を入れ替えているところもあるのだが、その辺も思いつきではなく作者なりに消化して出力しているのだろうと感じさせる。
メインの登場人物ふたりもよく描けていて、特に主人公は漫画という形式上必然的にカメラ視点になることでより不気味さが際立っていて、これはメディアを転換したことが明らかにプラスに働いている。また森野は綺麗で魅力的で、個人的には後半の展開を考慮に入れても少し感情表現が豊か過ぎるかなとも思わなくはないけど、この作品の不気味な美しさをよく体現している。
というわけでこちらもおすすめしたく。両方読むなら順番としては原作から、小説は読まないなって人はこちらだけでも楽しめると思います。
個人的ついでに書いておくと、森野のイメージがマラリヤとだぶるんだよなあ。なんかこういう方向性はありかなっつう。漫画読んでても QMA かよ、と自分に突っ込みを入れつつも。

*1:作者の作品の中で一番よく出来ている物語と言ってもいいのではないだろうか:なんかこう書くとあらかた読んでるみたいだが『ZOO』は未読。文庫になってるのは全部読んだ、筈。