黄昏通信社跡地処分推進室

黄昏通信社の跡地処分を推進しています

『九マイルは遠すぎる』 ハリイ・ケメルマン/永井淳・深町真理子訳 ハヤカワ文庫HM,1976 ISBN:415071102X

この作品はタイトルだけずっと前から知っていた。有栖川有栖の『月光ゲーム』の冒頭に出てくるミステリしりとりに登場していたのをなんとなくずっと憶えていた。どことなく謎めいていて、いかにもミステリらしい、人をひきつける題名だと思う。
さておき、安楽椅子探偵ものの古典として広く知られているらしい表題作だが、個人的にはそこまで鮮やかだとは感じられなかった。というのも、流石にあまりにも可能性が広すぎて、展開される論理は緻密ではあっても強引な部分が多々見られるのは否めないからだ。ただ、そのあまりにも広い可能性を収斂させていく力業は読んでいて中々心地よく、これはこれでいいとは思うのだけれど。
その他の作品は表題作に比べればずっとオーソドックスな推理もので、古典的な狂言回しと探偵のタッグによる事件解決なのだが、長さもすぱっと潔く余計なミスリーディングもなくて素直に楽しめる。題名だけで買ったにしては悪くなかった買い物か。