黄昏通信社跡地処分推進室

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『ぐっとくる題名』 ブルボン小林 中公新書,2006 ISBN:4121502272

当初ウェブで始まり、その後雑誌「活字倶楽部」に移った連載「ぐっとくる題名」と「ニューぐっとくる題名」を一冊にまとめたもの。古今東西、さまざまなメディアの作品の題名に焦点を置き、その魅力について考察したコラム。内容に言及することもあるのだけど、なるべくそれは最小限にとどめ、命名の意図だけを一方的に考えるという方向性が面白みを産んでいる。取材せず洞察を頼りに、を標榜する作者の面目躍如と言えるだろう。ともすると抽象的な議論になりがちなテーマだと思うが、常に実在の作品の題名から離れない態度を保つことで具体性を失わず、なおかつ短い章を題名の類型別に数多く連ねることである程度包括的な論を形作ることに成功している。ってそんな小難しい本じゃないですけど。
取り上げられていたタイトルで気にかかったのは『幸せではないが、もういい』。なにか強迫観念めいたものとそれを振り払う意志がにじみ出ていてちょっとかっこいい。そもそも「もういい」って言葉自体ニュアンスが豊富で題名向きだ。
残念なのは、直接本とは関係ないのだが、ウェブの頃の「ぐっとくる題名」がつい先日まで作者のサイトに載っていたのに刊行に際してすべて削除されてしまったこと。まあ本になるというのはもちろんそういうことなのだが、プロモーションとしての効果はわずかでも期待できたと思う。出版社と協力して、なんとか残して欲しかったところ。