黄昏通信社跡地処分推進室

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栞してて思いついたねた。
イシターの復活』というゲームがある。『ドルアーガの塔』においてギルがカイを助けた直後の物語で、塔からふたりで脱出するのが目的だ。パスワードによる能力値の蓄積システムを搭載しているのが特長で、何回もプレイを重ねてキャラクターを育て上げるのが前提とされていた。当時としては画期的を通り越して殆ど無謀な試みだった。実際熱心なファンがついていた一方で、稼動期間はそれほど長くなかったと記憶している。
ステージ数はなんと 128。このゲームでは各面を「部屋」と称しており、部屋のどこかに落ちている鍵を拾って、その鍵の合う扉に差し込むと次の部屋に進める。ひとつの部屋が複数の部屋とつながっているところが多く、面構成自体が迷路になっていた。
事実上最後の部屋「ENTRANT HALL*1」では、最強の騎士「アキンド・ナイト」を全滅させないと鍵が手に入らない。その他にも厄介な敵が多く、最後の砦と呼ぶにふさわしい部屋になっている。ギルとカイをかなり強くなるまで育てない限り、クリアすることは不可能だ。……と、思われていた。
ところが、致命的なバグがあった。この部屋で、部屋を最初からやり直す効果のある「DUO DIMENSION」という魔法を使うと、なんと労せずして鍵が手に入ってしまうのだ。魔法の処理において、残っている敵を一旦全てリセットして元の位置に再配置する、という流れになっており、そのリセットした時にアキンド・ナイトの残りが0になったというフラグが立ってしまう。DUO DIMENSION は中堅級の魔法だが、それさえ使えれば理論上は最後の部屋をクリアできることになる。
このバグはゲームの興を削いだ *2 が、一方で新たなチャレンジをプレイヤーにもたらすことになった。まったくの最初から初めて、何コインで最後までクリアできるか、という。
1コインクリアが不可能であることは自明だ。カイの成長はゲームオーバー時にしかなされないから、DUO DIMENSION が使えない。しかし、道中にはカイの「次回プレイ時の」魔力値を一定の数値まで引き上げてくれる宝箱が存在する。これに辿り着ければ、次のプレイからは DUO DIMENSION が使えるようになる。そしてギルの HP を一定値にする宝箱も道中には存在する。このふたつを組み合わせると……結論を書いてしまうと、2コインでクリアできるのだ。
バグがあったために、本来あり得なかったチャレンジが成立した。意図してデザインされたものではなかったが、バグであろうとなかろうとゲームというのは大抵全て作り手の意図どおりに遊ばれるなんてことはあり得ないものだ。それがプラスに働くこともマイナスに働くこともあるが、この場合はプラスだったのではないだろうか。
致命的と思われたバグが思わぬ面白さを提供した例を、もうひとつアーケードゲームに見出すことができる。次回の[rememberance]のねたはそのゲームにする心算。

最後に、直接関係ないけど2ちゃんの過去スレ倉庫より転載。前にも見たことあったが今回見て改めてにやにやしてしまったので改めて貼っておく。質問はスレッドに書きこまれたもので、回答はデザイナーの遠藤雅伸本人による。


E> なんでギルがレバー1本操作なんでしょうか?元々2人で遊ぶ事は考
> えてなかったのでしょうか?

 本来2人で遊ぶための仕様です。ギルを初心者(カノジョ)がプレイして、
カイを操作する上級者(カレシ)が強力にバックアップする作戦だったの
ですが、ゲーセンに来るようなヤツにはカノジョなどいませんでしたと
さ…。大外し、ごめん。
本気でそう思ってたのならおめでてーな、という他ないが、このゲームの企画を通すのに役に立った「仕様」ではあったのかも。もちろんそれが1人でも充分プレイできる難度をもたらすことを承知の上で。そう考えるとちょっと面白い。

*1:ENTRANT HALL:ママ。もちろん「ENTRANCE HALL」が正しい。他にも部屋名や魔法の綴りなど細かいミスが多いゲームではある。良くも悪くもひとりのクリエーターが細部にまで深く関わって作り上げた昔のゲームならではという感じ。

*2:ゲームの興を削いだ:とはいえ広く知られたのは遅かったし、クリアだけではなくキャラクタを育て上げることそのものにも楽しみを見出すプレイヤーも多かったので、ゲームの寿命を縮めるほどの影響はなかった……と記憶している。実際のところは不明。