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[スプラッター一発ぶっぱなせ]心に残るゲームたち (35-1):『スプラッターハウス』(回顧編)

■『スプラッターハウス』 アーケード/ナムコ,1988
初めてこのゲームを見た時には、反射的に嫌悪感を覚えたことを記憶している。何度か書いてきたが、80 年代前半のナムコはポップなセンスに溢れた良作を次々にリリースしていたメーカーで、おれにとってはちょっと特別なメーカーだった。80 年代中盤以降は明らかにセンスの良さが失われていって、段々特別なメーカーではなくなっていったのだけど、この頃のおれの中にはまだ特別さのイメージが残っていた。このゲームは、明らかにそのイメージに反していた。
タイトルを見ていただければおわかりだろうが、このゲームは血みどろゲーだ。しかも結構気合いの入った。流石に生身の人間の血がほとばしったりはしないが、ゾンビやら二足歩行のクリーチャーやらがうぞうぞ出てきて、主人公がそれをパンチやキックで殴打するとぼこっとかぶちゃっとかいって肉片や体液が飛び散る。さらに、道中では棒や鉈などの道具がしばしば落ちていて、それらを使うとより派手なスプラッターが展開される。プレイしたことのある方ならきっと誰もが、鉈が敵の首を跳ね飛ばす「スコーン」という音をまざまざと思い出すことができるだろう。
ともあれ、特にスプラッターに興味がない、というかどちらかといえばおどろおどろしいのはちょっと苦手なので、このゲームには最初は手を出さなかった。ところが、このゲームは人気があった。周りにやってる奴が多くて、そうするとプレイを見る機会も増える。見ていると、確かに面白そうだ。そんな感じで、少し出遅れたけど始めてみた。
面白かった。
なんといっても、自機を動かした時の感触がよかった。8方向レバーにアタックボタンとジャンプボタン、だからごくありふれた操作系だ。だけど、動かしていて妙に気持ちよかった。足は遅い。なんだか妙にもっさり動く。ジャンプも微妙にレスポンスが重い。「おいしょっ」という感じで跳ぶ。だけどパンチはやたら速いうえに、異常に連射が効く。そしてあの謎のスライディング。斜め方向にジャンプして、着地の瞬間にレバーを下に入れながらアタックボタンを押す。ちょっと慣れの要る操作だったが、妙に長い距離を滑れる上に判定が強くて威力も高い。さらに、ジャンプしたのと逆方向に滑ることすらできる。
これも以前少し書いたのだけど、自機の操作に特別な感触(というか手ごたえというか)があるゲームを、おれはしばしば好きになる。『クレイジークライマー』『タイムパイロット』『キャメルトライ』といった独特の操作系のゲームたちはその典型だし、オーソドックスな操作でも『ソロモンの鍵』なんかは動かしている感じが好きだった。『スプラッターハウス』も、おれの中ではその系譜に連なっている。
そして、その操作で繰り出す攻撃が相手に当たった時のリアクションが、ものすごくよくできていた。
パンチやキックが相手に当たると、「ぼこっ」という音がして敵が吹っ飛ぶ。あるいは崩れ落ちる。棒を握れば「びゅん」という音を立てて振り回し、敵を叩きつけて壁の染みにしてやることができる。鉈であれば上述の「スコーン」、斧だったら「ずがっ」、とそれぞれに派手な効果音が響き渡る。
二足歩行のクリーチャーをぼこぼこにして突き進む、というのは「悪趣味」や「不謹慎」に属する内容なのかも知れない。しかし、その手応えは気持ちいいとしかいいようがないものだった。このゲームを作った人は、ゲーム内で主人公が振るうことのできる暴力や破壊がプレイヤーにもたらす本質的な快感をよく理解していたのだと思う。
年少の頃から暴力的な内容のゲームで遊んでいると将来暴力を振るうことをためらわない人間になる、みたいなことを言う人がいる。
あほ言え、と思う。虚構と現実の区別は大抵の奴にはついてるし、つかない奴が居るとすればそいつは映画にも小説にも影響を受けるだろう。
でも逆に、ゲームなんて所詮虚構だし、遊ぶ人の人格形成に長期的な影響はなんら及ぼしませんよね、と言われたらどうだろう。
おれは、ゲームなめんな、って多分言うだろうと思う。
だとすれば、悪影響を軽視し過ぎてはいけない。スプラッターハウスが具体的に問題があるかどうかはおれにはなんとも言えない。しかし、これだけ暴力の快感をうまく表現できているゲームはそう多くないのではないかと個人的には思っている。
話が逸れたが、ともあれ操作の快感が存分に詰まっているゲームだった。
難度のバランスもよかった。最初のうちは適当に殴る蹴るでも進めるが、やがてジャンプ、しゃがみ、武器、などなどを使いこなさなければならなくなる。場面ごとに使い回されている敵もいるし、後半に進むと新たな敵も登場する、そのバランスもよい。先の場面を見たくなるし、新しい部屋での攻略に頭をひねらされた。
簡単なゲームではなかったが、なにしろ面白かったので、やりこんでいるうちに少しずつ先に進めるようになっていった。中盤には思わぬ悲劇的な展開も待っていて大いに驚かされ、ラスト2面は中々パターン化が安定しなかった。それでも最終的には1コインクリアもできるようになった。
嫌悪感はすっかり忘れ去っていた。それどころか、歴代のナムコゲームの中でもかなり好きな部類に数えられるほどにまでなった。今になってもこのゲームには時々コインを入れてしまう。操作の感触と、攻撃の手応えが、決してこのゲーム以外では味わえないからだ。そういうゲームはそれほど多くない。たとえ黄金期のナムコのゲームであっても。
最後にひとつ。
このゲームで、これもリアルでは 100 回ぐらい口にしてきたのだが、とても好きな演出がひとつある。3面に登場するライフルだ。銃器の分際で威力はパンチ2発分という情けない奴なのだが、これを撃つと、乾いた銃声が響き渡り、その瞬間に前方にいる敵が吹っ飛ぶ。その時に、画面には弾丸が一切表示されないのだ。そりゃそうだよな。初めて見た時心底感心したし、今でもフォロワーを見かけないのが不思議なぐらい見事な演出であったと思う。

  • 次回は各面攻略を書いてみる。