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[中二センス満開]心に残るゲームたち (36) :『エイリアン地底魔城』

『エイリアン地底魔城』(ハロー・チャレンジャー・ブック3) 原作:菊池秀行、文:ミント・クルセダーズ 朝日ソノラマ1984
ゲームブックもゲームじゃないか、という天の声があったので今回はゲームブックをとりあげてみる。とはいうものの社会思想社東京創元社の奴では流石にひねりがないので、今は亡き朝日ソノラマ社の「ハロー・チャレンジャー・ブック」(以下 HCB)シリーズからこの一冊を選んでみた。
HCB はまだゲームブックという言葉が広まってすらいない頃に始まったシリーズで、国産ゲームブックの文字通りの第一作もこのシリーズの1巻だったりする*1。新書版の横書きという珍しい版型が特徴で、最終的に 15 作刊行されているからそれなりに人気もあったのだと思うが、後期の作品は部数もそれほど出ていなかったと見えて、一時期古本屋でそこそこ気にして探していた時期にも1〜5巻はそこそこ見る一方で6巻以降は殆ど見なかった憶えがある。
さておき、この作品は菊池秀行が原作にクレジットされていて、タイトルを見てもわかるように「エイリアン」シリーズのスピンアウト的作品という位置づけにある。詳しくは調べていないが少なくとも同名の小説は刊行されていないので、おそらく元ねたになった小説があったりしたわけではない。実際のところ本人がどこまで係わっていたのかさっぱりわからないのだが(だいたいミントクルセダーズって何者だよ)、この作品に関して言えばそれなりに菊池秀行的雰囲気は出ていたと思う。菊池秀行は他にもゲームブックの原作があり、この分野には理解があったようだ。
「エイリアン」シリーズは、読んだことがある方ならご存知だろうが、18 歳のトレジャー・ハンター八頭大(やがしら だい)が超人的な能力と装備と資産にものを言わせて大活躍するはちゃめちゃな冒険活劇で――ごめんおれも殆ど読んだことない――考えてみるとゲームブックとは中々に親和性の高い設定と言える。この作品でも主人公である八頭大はウィルディ .45 オートマグナムと E-手袋という二通りの武器を持っていて、状況に応じて使い分けるというのがいかにもゲームブック的だった。


ストーリーはシンプル。引退した伝説のトレジャーハンター、ジョン・シルバー・Jr. が、後進のトレジャーハンターに自分の財産を遺すという。それにあたって、世界中から招待した選りすぐりのハンターたちに争奪戦をさせて、勝者にその財産を譲るという方法を提案してきた。八頭大もその招待を受け、凄腕のトレジャーハンターたちを向こうに回して財産を巡る冒険に向かう、というような導入だった。
かなりトンデモな設定ではあるが、曲がりなりにも現代が舞台なのは特長と言える。銃器等の近代兵器が活躍するゲームブックはそれほど多くなく、それだけでもちょっとわくわくする。それと、要所でライバルのトレジャーハンターが登場して、その時々によって共闘したり敵対したりという選択を迫られることになるのも味わい深かった。


HCB の特に初期の作品は、極力シンプルなシステムを心がけて作られているようで、サイコロすら用いない作品が多い。この作品も例外ではないが、一応能力値は存在した。判断力、体力、精神力、器用さの4種類で、開始時に合計 10 ポイントを好きに割り振る。ゲームの展開に応じて能力値は上下し、しばしば「――が4以上なら/3以下なら」という分岐が存在する。
この能力値に依る分岐が実に厳しかった。「ある能力が○以上だとその能力が1上がる」という場面が多いので、当初から高い能力は上がりやすく低い能力は上がりにくい。しかし道中から最後の最後に至るまで4つの能力はまんべんなく要求される。クリアできる初期能力値の割り振りは1通りか2通りしかなかった筈だ。


ゲームブックとしての出来は、その能力値の厳しさを抜きにしても正直あまりよくない。事前に察知しようがないデッドエンドが多く、それも分岐一発で簡単に終わってしまう。ゲームブックの教科書があれば、やっちゃいけない例として引用されるだろうシーンが山ほどある。
とはいうものの、死ぬのを前提で何度もやり直してクリアするのも、指を挟んで未来を覗き見ては戻りを繰り返すのもゲームブックの楽しみだとは思うので、特に項目数の少ないゲームブックでは死にまくるのもありかも知れない気はする。


ゲーム以外の部分でも見るべきところはある作品だ。前述した主人公の設定に加えて、後半登場する「方舟」にまつわる設定はいかにも菊池秀行らしく、昔の SF によくある、オリジナリティが高いとは言えないけど、荒唐無稽でスケールが無駄にでかくてよく考えると意味がわからない、わくわくさせられるアイデアだった。上に書いたこととも通じるが SF もののゲームブックはさほど多くない。初期にこの作品がリリースされながら全体ではそれほど多くなかったことを考えると需要が少なかったのかも知れないが、個人的には好きな雰囲気だった。


最後にちょっとだけねたばれというか攻略法を書いておく。方舟に至るまでにジャングル的な迷路があるのだけど、そこにループがあって選択次第では同じ項目を何度も巡らされてしまう。ところが、その中に能力値が上がるパラグラフがあるのだ。これを使うとある能力を無限に上げることができる。
全部チャートを書いてみたことはないけど、このゲームはこれを使わないとクリアできないのではないかな。そのぐらい難しいし、これを使ってでもクリアしたのなら胸を張っていいと思う。

*1:たしか1巻『出発!スターへの道』と2巻『騎士ローラン 妖魔の森の冒険』が同時リリース(1984-09 らしい)。『火吹山の魔法使い』が 1984-12 の刊行だから、かなり先駆的だったと言える。