黄昏通信社跡地処分推進室

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『ハイスコアガール』 押切蓮介 スクウェア・エニックス/ビッグガンガンコミックススーパー,2012 ISBN:9784757535121(1巻) ISBN:9784757538412(最新3巻)

ずいぶん前にある QMA プレイヤーがブログで勧めていて、無料公開されている分を読んでみたんだけどその時にはあんまりぴんと来なかった。ただその後もぼんやりとは気になっていて、ちょうど3巻が出たタイミングで妻が友人に勧められたという話をしていたのでいい機会だと思って買ってみた。
作中の時代は80年代末から90年代前半にかけて(今のところ)。主人公ハルオは勉強も運動もまるでだめ、ビデオゲームが唯一の趣味でその腕前にだけは自信がある。一方ヒロイン大野晶は勉強もスポーツも万能の美少女で家もお金持ち、それでいてゲーセン大好きでゲームの腕前すらハルオより上。1巻ではそのふたりのゲーセンだけで成立している友情が描かれる。
ハルオにとってはもちろんのこと、大野にとってもゲーセンは救いの場所なのだということが徐々に描かれていき、だからこそ正反対のふたりが交流することができる。しかしそこをシリアスになりすぎることなくあくまでギャグで描いているところが個人的には好きだ。
展開も意外とダイナミックで、正ヒロインである大野は1巻の最後で一旦退場し、2巻ではもうひとりのヒロイン的存在の日高が登場して、ゲームに興味のない(なかった)同級生の女の子の視点からハルオが描かれ、3巻に入ると再び大野が戻ってくる。1回あたりのページ数は少ないとはいえ、ここまでで作中でまる3年以上経過していることになるのは今日日珍しいほど潔い速度感だ。
当時のゲームを知る者にはより面白いねたがちょくちょく差し挟まれているのも嬉しい。ハルオが PC エンジン派という設定がそもそもいいし(「おかげでスーパーファミコンは買ってもらえずじまいになったが後悔はしてねぇ」という科白の無駄にかっこいいこと)、2巻でハルオが日高に「ゲーセンのゲームを見せてやる」と言ってわざわざ連れて行ってまで見せるゲームがモータルコンバットというくだりなどにやりとせずには居られない。
単純に面白くてよくできてる漫画で、今後の展開も普通に楽しみ。あの頃のぎりぎり薄暗かったゲーセンを知る人ならきっとより楽しめるが、それにとらわれることなく広く読まれてほしい作品だ。