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鯨肉に係る思い出

僕が小学生の頃は給食で鯨が出ていた。ケチャップ煮、が多かった気がする。竜田揚げもあった筈らしいのだけどそちらははっきり憶えていない。いずれにしても鯨は相当な不人気メニューだった。僕はわりと好きだった記憶があるのだけど、ほんとうに好きだったのかちょっと自信がない。「好きだって言い張ってた」みたいな感じ*1だったような気もするからだ。とはいえ嫌いなものを好きだと言い張るのは難しいので、少なくとも嫌いではなかったと思う。ライバルが少ないからおかわりも簡単だった。


低学年か中学年ぐらいの頃、給食から鯨は姿を消した。調べたところ IWC による商業捕鯨モラトリアムの採択が 1982 年らしいのでほぼそれと同時だったと考えると時期が合う。実際には日本が商業捕鯨から完全に撤退したのはもう少し後の 1988 年になるのだが、少なくとも僕の小学校で給食に鯨を出さなくなった時期は前者の方がずっと近いと思われる。地域や学校によっても差が大きく、そんなに網羅的な調査をしたことがあるわけでもないけれど、同じぐらいの歳の人に聞くと、僕たちの学年がかなり下限に近いらしい印象を受ける。例えば2つ下の弟に聞くともう憶えていないという。


母が五島列島の出身で、商業捕鯨が禁止されてからも九州に住んでいる伯父から時々鯨肉を送ってもらっていた記憶がある。東京では買えないだろうというわけだ。時期で言うと僕が中学生から大学生ぐらいだっただろうか。確かにその頃は鯨を買うのは少し難しくなっていたような気がする(とはいえ親元で暮らしていて自分で買い物することなんてあまりなかったので実際どうだったのかはよくわからない)。なかなかおいしいのを頂いたり、やたら硬くてかみちぎるのもしんどいみたいなのが届いたりしていた憶えがある。それでもおれは一貫して「鯨を好き」であることをキープしようとし続けていた。


いつの日からか鯨も届かなくなり、おれが鯨を食べることもなくなっていた。たぶんほんとに全く食べていなかった時期が数年間あると思う。ひとり暮らしを始めて、そこそこ買い物したり自炊したりしていたけれど、その頃には鯨を食べようと考えすらしなかったと思う。
ところが最近になって、帰りにスーパーに寄って刺身売り場と肉売り場を冷やかすのが半ば習慣になってから、また急に鯨が気になり始めた。近所のスーパーで意外に手頃な値段で鯨の刺身を売っているのだ。おそるおそる買ってみると、やっぱり旨い。正直なところ記憶の中にある給食や我が家で食べた鯨の味とはそんなにつながりがなくて、むしろ大人になってから初めて食べた馬刺の味の方がずっと近い感じがするのだけど、ともあれついつい買っちゃう程度にはおいしい。記憶の中ではつながっていなくてもやはりおれの根っこの方に小学生の頃好きだったものが残っているのか、それともむしろ偶然に近いものなのか、確かめようがないことだけれど少し気になっている。

*1:小学生の頃からこういう逆張り的なことは結構していた気がするので、なにが本当に好きでなにが好きだと言い張ってたものか、自分でも結構よくわからないことがある。