黄昏通信社跡地処分推進室

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息子が熱を出し、おれが帰ったときには解熱剤を入れられて眠っていたのだが、23 時頃に目を覚ましてうーうー泣き叫んでいる。まだ済ませていない家事もあったので「こっちくる?」と聞いてみたら、意外なほどすんなり起きて寝室から出てきた。「のどかわいちゃった」というので水を飲ませてやるとあっという間に一杯飲み干し、それから妙に上機嫌で「なにやってるの?」と聞いてきた。
晩ごはんの片付けをしてるんだよ。
おとなのばんごはん?
そう。
はるねえ、きのうばんごはんたべなかった。おいしゃさんでごはんはすったりんごとかしかたべちゃだめー、っていわれたんだよね。
そっか。でもハル、それは昨日じゃなくて今日だよ。
え? なんで?
まだ 10 時 40 分だから。君が寝てからまだ3時間ぐらいしか経ってないんだよ。
そんなことないよ。ひづけかわってるよ。
でもそうなんだよ。まだ今日なの。
そっか。
それから僕は明日の朝のパンをホームベーカリーに仕込むのを息子に手伝ってもらった。粉を入れ、バターを入れ、砂糖を入れ、塩を入れ、水と牛乳を量って入れ、本体にケースをセットし、ふたを閉じ、上ぶたをあげてドライイーストを入れる。上ぶたを閉じて、ボタンを3つ押して、羽根がぐん、ぐん、と動き始めたら少しだけふたを開けて中を覗く。中では粉が金属の羽根に撹拌され、見る間に粘り気のある生地になっていく。その魔法のようなさまを、僕と息子はじっと眺めて、やがて満足してふたを閉じる。





小さい頃、寝入って少ししてから目が覚めてしまい、寝付けなくなってしまうことがたまにあった。引き戸の外にだれかの動く静かな気配を感じて寝室から出ると、母親がまだ働いていて、寝付けない僕に声をかけてくれた。それからしばらく、いつもは僕が眠っている間に母親がしている仕事を見せてもらって、なんとなく安心して寝室に戻った。大人はずいぶん遅くまで起きていて働いているんだなと思ったのを憶えている。今では僕がその大人の方になって、目を覚ましてしまった子供に声をかけている。